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あの日あの時会った人


赤也に連れられて向かった先、鳥居のそばにいた集団から真っ先に飛び出して来たのは丸井先輩だった。あけおめ今年もシクヨロとウインクされ、ほっぺたについていたケチャップを深雪が拭いてあげていた。そして次にすっと前へ出て来たのは、すらりとした長身に相変わらずのさらさらヘアーな柳先輩だ。

前に公園で見かけて知っていたとはいえ、間近で見るとあまりの変貌振りに驚いた。私でこれなんだから何も知らなかった沙耶なんか誰これ状態だ。案の定、名前を聞いておったまげていた。

知っている先輩は柳先輩、丸井先輩、ジャッカル先輩の三人。そして、その後ろから現れた二人に私と沙耶は声をそろえて叫ぶ。


「「あのときの変質者!!」」


ご丁寧に指もさして叫んでやったので周囲の目が一斉に二人に向けられた。しかしなぜかそれも一瞬で、人の波はまただらだらと流れ始める。私たち自身、なぜ彼らがここにいるのかが分からず「半袖半ズボン眼鏡!」「制服着たおっさん!」と記憶の中にある姿を言葉にした。

対して指をさされた二人はあんぐりと口を開け、丸井先輩と赤也は腹を抱えて笑い、ジャッカル先輩はおろおろと両手を彷徨わせ、私たちは深雪に口を塞がれて「あ、こらあかん」と顔を青くする。後悔先に立たず、覆水盆に返らず。今更だけどどう考えてもまずい。


「…二人とも、失礼よ」
「あああ待って深雪!あたしらも悪気があったわけじゃなくて…!」
「そう!前にちょっと見かけたことがあって勘違いしたといいますか…!」
「さ、真田とヒロシが、変質者とか…!」
「「丸井先輩ちょっと黙って!!」」


つい口走っちゃったけどよく見たら二人とも好青年っぽいじゃないか。少なくとも眼鏡の人ははあはあしてないしおっさん顔の人は…おっさん顔だ。すごい、え、顧問…じゃないんだよね。丸井先輩が呼び捨てにしてたし、中学、生…?


「藍田と飛川が真田の年齢を疑問に思っている確率、93%」
「むしろ100%なんすけど」
「あ、やっぱり沙耶も同じこと考えてたんだ…」
「貴様ら俺をなんだと思っているんだ」


おっさんですけど。とは口にしない。なんだかややこしいことになってきたなあと思っていたら、話をまとめるように深雪が私たち二人のことを紹介してくれた。変質者もとい眼鏡の人が柳生先輩で、おっさん顔の人が真田先輩だそうだ。実際に話してみるととてもいい先輩だと分かり、そこで丸井先輩とじゃがバターを取り合っている赤也についてお礼を言っておいた。

それから柳先輩にもお礼を言った。冬休み前の期末で赤也がいい点数を取れたのはどう考えても柳先輩特製ノートがあったおかげだからだ。私は何もしてないけど、沙耶と深雪はあのノートのおかげで全教科カバーできたと言っていた。よくわからないが二人は真田先輩にこれからも赤也を頼む、と肩を叩かれている。


「あれ?そういえば仁王先輩がいなくないっすか?」


じゃがバターを取られてぎゃんぎゃん騒いでいた赤也が、周りを見回しながらそう言った。まだ他にも先輩がいたのか。首を傾げる赤也に、丸井先輩が射的に行っていると答えると、腕時計を確認した柳生先輩が迎えに行きましょうかと提案する。しかしそれを遮るように、柳生先輩の後ろに人影が現れた。


「その必要はないぜよ」


聞き慣れない訛り。揺れる銀色、鋭い目。視線がかち合う。この人は、


「「シベリアン・ハスキーの」」


…またやっちまった。ついさっき後悔先に立たず以下略と反省したばかりなのについ口が。私が言われる分には分かるが、言う側に回るのはおかしいであろう単語。案の定、銀髪の人を含めて全員が首を傾げている。


「仁王とも面識あったのか?つーかなんで仁王がシベリアン・ハスキー?」
「や、前に散歩してたら会ったことがあって…シベリアン・ハスキーに似てるって思っただけなんですけど」
「柳生、俺は犬っぽいんか?」
「どちらかと言うと猫ではないでしょうか」
「だが言われてみればシベリアン・ハスキーに似ている気もするな」
「参謀が言うんならそうかもしれんの」


仁王と呼ばれるこの先輩は脇に抱えていたぬいぐるみを柳生先輩に渡してへらりと笑った。見かけによらず柔らかく笑う人らしい。でも私と沙耶が改めて自己紹介をしたときにはなんとも不敵な雰囲気を醸し出していたので、あの笑い方は身内限定なのかもしれない。

何がともあれ、これで向こうの連れ全員と自己紹介と挨拶は済ませた。お守りは赤也に渡したし、柳先輩にお礼も言えたし、もう用はないだろう。じゃあ私たちはこれで。テニス頑張ってください。また学校でお会いしましょう。と簡単に挨拶して彼らと別れた。

それから三人で出店を回って、お土産にたこ焼きを買って帰ったらイカ焼きの方が良かったと母に文句を言われた。なら先に言えよと思いつつパックを開けたら、誰が食べないと言ったと怒られたので今年一年も母は天上天下唯我独尊を貫くんだろう。先が思いやられる。




あの日あの時会った人

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