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きっと彼は冗談好き


足を止めた私に気づいたのか、沙耶と深雪も声の主を見る。すると今度は深雪の名前が呼ばれて、私と沙耶はさらに混乱した。


「お前あれだろい、一年の古怒田。俺二年の丸井な。んで、こっちがジャッカル」
「はい、古怒田深雪です。先輩方のことは私も存じ上げております」
「深雪の知り合い?」
「私の、というより赤也のね。テニス部の先輩なの」
「ああ」


赤髪の先輩とスキンヘッドの先輩。赤也の先輩で、フーセンガム、チョコボール…と軽い連想ゲームを脳内で繰り広げたところでようやく思い出した。なんかあれだ、えーっと、まあ…前に見たことあるような気がしないでもない。


「先輩方は佳澄のことをご存知なんですか?」
「ああ、前に犬といるところ見たぜ。赤也の友達だろい?」
「シベリアン・ハスキー二匹連れてるなんて珍しいから、なんとなく覚えてたんだ」


シベリアン・ハスキー二匹と言われてしまったらほぼ確実に人違いの線は消えた。でも向こうも私の名前までは知らなかったみたいだしこのまましらばっくれておこう。たぶん問題はない。はず。


「飛川佳澄です。いつも赤也がお世話になってます」
「藍田沙耶っす」
「ん?沙耶ってなんか聞いたことあるようなないような…」
「まあよくある名前なんで」
「いや、俺も割と最近に聞いた気が…そうだ、英語のじゃないか?」
「それだそれ!」


シベリアン・ハスキーの次は英語のときた。なんでも赤也が英語で赤点を免れた第一回勉強会の時から名前は聞いていたらしい。それに柳先輩のノートに書いたメッセージのことや幸村先輩へ贈った千羽鶴のこと…と意外と向こうには知られていた。名前は知らなかったのになんだか変な感じだ。

二人は赤也とゲームセンターに来ていて、今はトイレに行った帰りなんだと言う。私たちの目的地もゲームセンターだったから、流れで一緒に向かうことになった。共通の話題である赤也のアホ話を聞いたり話したりしながら歩き、格闘ゲームのコーナーへ。赤也は休憩していたのか、空いた椅子に座って缶ジュースを飲んでいた。よっと手を挙げてみれば、向こうも「あー!」と大きな声をあげて私たちを指差す。


「なんで先輩らと一緒にいんだよ!」
「さっきそこで会ったんだよ」
「騒ぐと来年のサンタさん来なくなるよ」
「っと、やべ!」
「「え」」


私の言葉を聞いて、慌てて口に手を当てた赤也。と、それを見てマジかよとでも言いたげな顔をする丸井先輩とジャッカル先輩。残念ながら大マジっす。


「まあいいや。俺らもプリクラ行くぜ」
「え、男だけとか寒くないっすか…クリスマスなのに…」
「バーカ。ここに女子三人いるだろい。俺らも三人だし丁度いいじゃん」
「え、一緒に…?」
「一緒に一緒に。幸村くんにも教えてやりたいしな!」


なんともまあ妙なことになった。男子三人に女子三人ってはたから見たらトリプルデ…いや、皆まで言うまい。ばちこーんと華麗なウインクを決められては…断りたいところだが、幸村先輩の名前を出されたら私たちも了承するしかない。まあ代わりに、ささやかな反抗として丸井先輩とジャッカル先輩の髪型を小学生時代の柳先輩ヘアーにらくがきしておいた。幸村先輩が喜んでくれると嬉しい。




きっと彼は冗談好き

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