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飛んで帰った祈りの鶴


『ちゃんとどっちも渡したぜ!』
「何を」
『何をって、千羽鶴とノートに決まってんじゃん』


ずこーっと音を立ててジュースを飲み込む。ついでに氷をばりばりと噛み砕いたら電話越しの声がうるさくなったので通話を切った。向こうもうるせえと言っていた気がする。

現在地ファミレス。時刻は午後三時十七分。終業式が終わり、冬休みの予定を立てるために沙耶とだらだら話し込んでいるところだ。


「なんだった?」
「千羽鶴とノート渡したってさ。終業式の後そのままお見舞いに行ったんじゃないかな」
「幸村先輩、受け取ってくれたんだ」
「たぶん」
「たぶんかよ」


呆れたように笑う沙耶。だけどすぐに机の上の携帯が震えて、画面を確認した沙耶が「ありがとう、だってさ」と爽やかな笑みを浮かべた。どうやら幸村先輩から直接お礼のメールが来たらしい。沙耶はそのまま、返信を打たずに携帯を閉じた。


「で、冬休みいつなら遊べる?」
「四日から七日は親戚んち行っちゃうから年内がいいかなあ」
「初詣は一緒に行こうぜー」
「行く行く。あ、クリスマスは空いてる?」
「午前中は部活だわ。午後からなら空いてるけど」
「んじゃどっか行こう。深雪がその日しか空いてないらしくてさ」
「むしろなんでクリスマスしか空いてないんだあの子」


深雪は美人だ。おまけに頭もいい。彼氏がいてもおかしくないスペックなのに色恋沙汰への興味が皆無なため、今まで彼女自身の口から恋だなんだという話を聞いたことがない。私と沙耶はもったいないと口をそろえてため息をついた。

そういう沙耶もボーイッシュさが前に出てしまうが美人なのは間違いない。むしろ男っぽいからと気さくに話している内に女の子な部分に気づいて惚れてしまう、というパターンが少なくない。沙耶も今は部活の方が楽しいらしく、色恋沙汰への興味が以下略なためその手の話題は滅多に出ない。今度は私一人でため息をついた。


「まあいいや。彼氏がいたらクリスマスに遊べないだろうし」
「つーか、立海の方で先約とか入ってないの?」
「そっちが彼氏と遊ぶからクリスマスが空いてるんだって」
「…最近の子らは早いな」


私たちも最近の子なんだけどね、をため息に変えて吐き出す。正直なところ、付き合うだなんだが分からないからあまりうらやましいとも思わなかったりする。だって、付き合ってください、はい喜んで、でそれまでと態度が変わるのか?口約束みたいで、形式張ってて、なんだかよく分からない。それをそのまま言葉にしたら沙耶もなんとなく分かる、と言ってくれたので私たちが中学生という名の青春を棒に振る確率は低くない。

そうやってだらだらとしなびたポテトでケチャップをすくったりしていた。不意に震えた沙耶の携帯。なんともなしに眺めていたら、メールを見た沙耶が吹き出した。けらけら笑って差し出された画面に、私はひくりと頬をひきつらせる。


件名:がに股
本文:いいね、これ。今度折り方教えて欲しいな。


添付ファイルはがに股のアグレッシブな折り鶴の写真。バレたというやっちまった感が半分、冗談の通じる人で良かったという安心感が半分、足してイコール引き笑い。楽しそうに返信を打つ沙耶の横で私は何度目とも知れないため息をついた。




飛んで帰った祈りの鶴

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