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持つべきは良い先輩


「幸弘のばーか!お前いっつもそうやって一人で抱え込んで俺にも言わねーし、そりゃ俺だっていっぱいいっぱいだったけど…!」
「赤也が大変なのに言えるかよ!第一、俺は勝手に一人で考えこんで自滅してるだけで別に赤也は悪くねえんだよ!」

「仲はいいんだけど、どっちも頑固だからねー。また佳澄に迷惑かけたでしょ」
「いいよ別に。慣れた」


ただいま第二次勉強会中。まずは赤也と幸弘の仲良し口論に始まり、たっちゃんがへらりと笑いながらココアを置いて、その横で沙耶と深雪がせっせと折り鶴を折っている。こういうところが相変わらずで、やっぱり好きだなあと思ったりする。

しばらくして、「これ以上幸村先輩の心労を増やさないためにも英語やろうか」というたっちゃんの言葉により、本来の目的である勉強会がスタート。みんなそれぞれ苦手教科の教科書やノートを用意し始めたのだが、赤也は一冊のノートを取り出して妙ににやにやと笑っていた。キモい。


「へっへー。俺、今回はすげーもんもらっちゃったんだよねー」
「赤也きめえ」
「きめえとか言うんじゃねーよ!」
「で、そのノート何?」
「よくぞ聞いてくれました!」


ぼりぼりとポッキーを貪る沙耶は、もったいぶる赤也の相手が面倒だったのか謎のノートを無言でぶんどった。赤也の相手はたっちゃんと幸弘に任せ、私と深雪は一緒にそのノートを覗きこむ。と、一ページ目からいきなり沙耶の名前が出てきて私たちは驚いてしまった。


「え、あたしの名前」
「今回のテストで出そうな箇所をまとめておいた…って、これ」
「すげーだろ!柳先輩が俺のためにわざわざ対策ノート作ってくれたんだぜ!」


流れるように綴られた文字を見つめて数秒、妙に誇らしげなアホ面を眺めて数秒。私と沙耶と幸弘は赤也のワカメ頭を順にぶっ叩いた。なんでぶつんだよと喚く赤也に、本場仕込のシャーラップが飛ぶ。隣にいた私もちょっとビビったのは内緒だ。


「赤也てめえどんだけ先輩に迷惑かけてんだよ!」
「だ、だって英語なんか全然意味わかんねーし…」
「この前全教科赤点取ったのにまだ懲りてねーのか!」
「え、なにそれ初耳なんだけど」
「赤也は七月の期末で全教科赤点取ったんだよなー」
「たっちゃんそれ言うなって!」
「あーかーやー!!」


馬鹿すぎる…こいつどうやって立海に受かったんだ…。沙耶は赤也の胸倉を掴みながら先輩の心配どうこうの前に自分の頭の心配をしろと説教し始めた。私もそう思う。ただでさえ幸村先輩の病気のことで大変だろうに、後輩の勉強の面倒まで見てくれるなんて。ノートには少しでも助けになればいい、なんて言葉も書かれていて本当にもう…先輩に恵まれすぎだ。

一方、深雪は騒ぎの中には入らず、熱心に柳先輩特製ノートを見ていた。そして最後のページに何かを書き込んだ後、赤也の名前を呼んでにこりと綺麗に微笑んだ。やばい。これは相当怒ってる。


「赤也、満点取ろうね?」
「う、うっす…」


涙目になりながら二人がかりのスパルタ教育を受ける赤也の横、柳先輩特製ノートのおこぼれに預かった私は悪くない。



持つべきは良い先輩

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