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心強い人たち



久しぶりに六人集まっての勉強会。たっちゃんと幸弘は前回地獄を見た赤也に付きっ切りで教えている。対して、私と沙耶と深雪は三人離れた位置で固まって顔を突き合わせていた。


「とうとう腹決めたか」
「私にももっと早く教えてくれれば良かったのに」
「それに関してはすんません…」
「仕方ないから許してあげる」
「さすが深雪さん!」
「経緯全部洗いざらい教えてくれたら、ね」
「さすが深雪さん…」


転んでもただでは起きない。逃すまいとしてか、ちらりと部屋の出口を確認する辺りが少々怖い。この抜け目のなさはどこぞの糸目先輩を彷彿とさせる。

本日は恒例の勉強会だが、正直言って赤也以外のみんなはほとんど問題がない。普段の勉強、学校での自習時間などで提出物も終わらせている。なので私たち三人は勉強そっちのけで話し込んでいた。

しかし、赤也だけはそうもいかない。それに付き合わされているたっちゃんと幸弘もそうはいかない。向こうで赤也がとんちんかんな解答をしたのか、腹を抱えて笑う幸弘がもじゃもじゃ頭を叩いた。


「わざとやってんじゃねえだろうな!てめえ!」
「本気だよコラ!やんのかコラ!」
「尚のこと質悪いわ!」
「二人共座って。本当に時間ないから」
「「ういーっす…」」


予想はしていたがかなり難航しているらしい。間延びすることの多いたっちゃんの声が短く切られているのがその証拠。なるべく関わらないようにしよう。

私はまず、沙耶と深雪に文化祭での一件を話した。大判の写真のこと、四人で写った写真のこと。二人の意見は“脈あり”だけど仁王先輩のことだから“分からない”の二つだ。別に勝ち戦を望んでいるわけではないから、この先の結果うんぬんについては置いておく。


「問題は連絡が取れないことなんだよね。メールも電話も全部無視で」
「そう…。仁王先輩、最近部活にはあまり顔を出してないのよね」
「こっちから言って話聞くような人でもないしなあ」


くるり、くるりと沙耶の手の中でペンが回る。他の日の予定は掴めないが、十二月四日ならある程度の時間まで校舎内に残っているのではないだろうか、とは深雪の言。たしかに去年のプレゼントの量から察するに、放課後に渡されたり祝われたりと下校までに時間がかかってもおかしくない。ならば、学校が終わったらすぐに立海へ向かって待ち伏せをするか。

現状、それ以外に仁王先輩を捕まえる方法が見つからない。幸い丸井先輩も協力してくれると言っていたし、学校を出たところで連絡をもらえればどうにかなるだろう。


「じゃあその作戦で…」
「待った。あいつの言うことなら仁王先輩も聞くかも」
「あいつって?」
「幸村先輩ね?」
「そ。あたしらのときの恩があるし、たぶん断らないと思うから」


あたしらのとき、とは幸村先輩がまだ入院していた頃のあの一件か。電話をかけると言って部屋を出る沙耶の背を見送り、深雪と顔を見合わせて笑った。

あれからずいぶんと時間が経った気がする。夏のど真ん中で、毎日がうだるように暑かった。そして、背筋も肝も冷えるようなあの空気を真っ向からぶち壊してみせた沙耶。一緒にいるところを見る機会はあまりないが、たまに見ると沙耶をからかう、と見せかけて幸村先輩が甘えているように思える。それを言ったら沙耶は「ただの嫌がらせだろ」と口を尖らせるだろうけど。


「ねえ、佳澄はいつから仁王先輩のことが好きだったの?」
「うーん…。正直、分かんない」
「じゃあどういうところが好き?」
「それも…よく分かんない」
「ふふ、分からないことだらけね」


そう言って、深雪は穏やかに笑った。決して呆れたような笑いではない、見ている方がくすぐったくなるような笑い方。ああ、深雪らしくて好きだなあ。

私がどうにもならない気恥ずかしさを持て余し始めてすぐ、助け舟を出すように沙耶がドアの向こうから顔を覗かせた。


「幸村先輩が“俺に任せて”ってさ」
「お、おお…ありがとうございます」
「礼なんかいらないよ。…え?…っはは、あれね。覚えてるよ。…あと、これは鶴のお礼だから気にするなって」
「鶴?」
「がに股のやつ」
「ん?…あれか!なつかし!」
「あと赤也!今回赤点取ったらもう試合してやらないって!」
「はあ!?なんの話だよ!」


思わぬところで赤也に飛び火。こちらの話を全く知らない赤也は意味が分からないだの相手は誰だだのと喚いている。そしてスピーカーにされた電話口からよく知った声が聞えるなり、反射的に正座して身を縮こまらせた。忙しい奴だなあ。

そして私は幸村先輩に呼び出す時間や場所の希望を聞かれ、いつもの時間のいつもの場所…夜の緑地公園でと伝えた。これに食いついたのは幸弘だ。


「今のって幸村先輩だよな?なんだったの?」
「つーかそっち!さっきから勉強してねえだろ!テスト勉強しろよ!」
「お前が言うなっつーの」
「赤也押しつけて内緒話されると気になるなー」
「たっちゃん地味にひどいぜ、それ」


やいのやいのと一人が騒げ出せば他も釣られて騒ぎ出すのはいつものこと。で、どういうことなんだと三人に詰め寄られ、私はとうとう観念した。遅かれ早かれ、この三人にも掻い摘んで報告するつもりではいたんだ。腹を括った以上恥ずかしくはない、とは言い切れないが、“仁王先輩に告白する”と言い切るだけの度胸は残っていた。

直後に上がった叫び声。なんでだのマジかよだの、まともな言葉はひとつもない。そして散々からかった後、頑張れと言って背中を叩いてくれるみんなが私は大好きだ。

勇気はもらった。あとはそれを言葉に変えるだけ。大丈夫。きっと言える。




心強い人たち

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