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反転へのカウントダウン



新人戦があったこともあり、いつもの面子の予定が合わなかったので中間テストの勉強会は見送りとなった。恐らく他の人たちも新人戦で忙しかったのだろう。私自身のテストの点数はいつもとそう変わらなかったが、順位の方は上がった。ちなみに赤也は再び赤点地獄に落ちたとかで深雪が大変ご立腹である。ご愁傷さま。

沙耶はバスケ部で新人戦県大会に向けて練習、明日香ちゃんは文化祭に向けて写真の整理、私も私でクラスの出し物の用意を手伝ったりとそれなりに忙しい日が続いた。看板作りにシャツのサイズのアンケート、景品をラッピングしたりポーカー用のポスターを作ったり、途中で飽きて遊んだり。まあそんな感じながらも準備は順調に進んだ。

そして文化祭一週間前には注文していた黒シャツが無事届き、男子は外に追い出して全員で試着してみることに。と、ここで重大な事実が発覚。


「沙耶のイケメンオーラやべえっす」
「ホストだね!ホスト!スカートやめて白のスラックスにしようよ!」
「あー、あたしもそっちの方がいいかな」


そう、女子にしては高い身長にショートカットの沙耶が黒シャツを着るととてもかっこよかったのだ。男子がちょっとばかし女子の反応を楽しみにしながら黒シャツで戻ってきたが満場一致で沙耶には負けるとの返答が。やっぱりこう、普通のイケメンより男装の麗人はぐっとくるものがある。きゃっきゃ騒いでも女の子同士だから問題もないし。

ということで、当日は沙耶のみ白のスラックスを穿くことになった。もちろん異論は認めない。先生が段々色物になってきたなあとボヤいていたがみんな知るかと言わんばかりに文化祭の打ち合わせを続けた。先生はちょっと寂しそうだった。

そういえば幸村先輩は文化祭のことを知っているのだろうか。あの人のことだから平気な顔で他校にも乗り込んで来そうだが、いろんな意味で騒ぎにならないはずがない気がする。気になったので答えを聞こうと、私は沙耶の肩を軽くつついた。


「ね、ね、幸村先輩って来るの?」
「たぶん来るよ…。いつやるのかとか聞かれる前に行くって言ってたし、なんか日にちも知ってたし…」
「ほー」
「ニヤニヤすんな。言っとくけど、立海の人らみんな来るからな」
「げっ!」
「道連れだ道連れ」


意地悪く笑う沙耶のなんと憎らしいことか。道連れという言葉から察するに、沙耶の方から他の人も連れて来いと言ったに違いない。頼むから写真のことは黙っていてくれと机に額を押しつけると、そっちも幸村先輩のことを黙っていてくれれば考えないこともないと言って口角を吊り上げる。やむを得まい。本当はつつき回して遊びたかったが私のガラスのハートの方が大事だ。命を大切に作戦で行こう。

こうして私と沙耶の間で秘密の条約が結ばれたのだが、それを知らない明日香ちゃんに全てぶち壊されることになる話はまたあとでということで。


いつもの面子が順当に県大会を勝ち進み、文化祭の準備も文化部と帰宅部の人を中心に順調に進めた。明日香ちゃんに呼ばれて写真部の展示を見せてもらったのだが、大判の写真は埃よけの布がかけられていたので現物を拝めるのは当日になる。見ることができた普通サイズの写真の中には、仁王先輩と並んだ後ろ姿もあった。この目立つ銀髪、知っている人が見れば一発で仁王先輩だと分かるだろうな。

どこのクラスも作業は大詰め。人の出入りは多いがネタバレになるからと教室の入口を閉めきっているところがほとんどだ。体育館も当日の流れの最終確認のため、ステージを使うグループの代表が集まっている。我がクラスでも前半後半のシフト確認、教室内でゲームの進行管理をする人、外で宣伝をして歩く人、ディーラーの人の練習などで騒がしい。というか半分遊び始めている。


「はい、じゃあまず手札を配りまーす」
「はーい」
「お兄さん手際悪いよー」
「うるせえ茶々入れんな。役はこちらのポスターをご覧くださーい」
「お兄さんどうやるのー」
「今から説明すんだっつーの。お前ちょっと黙ってろよ」


小芝居(恐らく小さい子供役)をしている男子は楽しそうだが、ディーラー役の子は始終鬱陶しそうに顔をしかめていた。

そんなこんなでシミュレーションや飾りつけなどを終え、沙耶と明日香ちゃんと帰路につく。文化祭は明日から二日間に渡って行われる。明日は我が校の生徒のみの参加で、あさっては父兄や他校生も参加できるようになる。私としては明日の内に流れと雰囲気を掴んで逃走ルートを確保しておきたい。これに関しては沙耶も同じだろうと同意を求めたら、


「堂々といかないと舐められる。あたしは逃げねえ」


と男らしくも予想外な返答をいただいた。ちょっと待って沙耶、吹っ切れないで、諦め悪く一緒に逃げて欲しかった。明日香ちゃんは言わずもがな、体育祭で撮影した写真と今回のポストカードをきっちり売りさばく気でいるしで私の味方はいない。


「狙い通り私以外に人物写真撮ってる人いなかったから、佳澄の写真が一番目立ってたよ!」
「はあ!?笑顔うざっ!」


前途多難。楽しみなはずの文化祭が今はただ悩みの種でしかない。どうか無事に二日目が過ぎますように…。




反転へのカウントダウン

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