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足取り軽く



二学年に進級するとき、先生たちは皆そろって口酸っぱく「中だるみの二年になるなよ」と言っていたが、この学校のスケジュール的にだるだるする暇がないと思う。特に二学期は。

体育祭が終わったと思ったら新人戦、新人戦が終わったと思ったら中間テスト、それが終わったと思ったら県大会、そして間を置かず文化祭。運動部の子は休む間のないスケジュールだ。ホームルームで配られた十月、十一月の行事予定表を見てそう思った。いやしかしイベントごとが多いから学業の方はだるだるするかもしれないのか。たしかにあながち間違いでもない?


「焼き芋やりてえなあ。小学校んとき校庭でやったじゃん。みんなで枯れ葉集めたついでにさ」
「やったねえ。あと沙耶、パンツ見えそう」
「スパッツ穿いてる」
「さいですか…」


いい具合にだらける沙耶はすっかり中だるみの二年生、と見せかけてテストはいつもきっちり上位に食い込んでいるのだが、今は体育祭で燃え尽きて無気力期間に入ってしまったらしい。片胡座をかいた上で肘をつき、眠たそうな目で瞬きを繰り返している。

体育祭では私も運動部の子に負けじと頑張り、クラス対抗リレーでなんと一位に輝いた。最終的な得点では二位と惜しい結果に終わったが、それでも楽しかったことに変わりはない。ただ、沙耶だけに限らず学校全体にどことなくやり切ったような空気が流れており、いつもなら騒がしい子もボーっとしていることが多い。みんなイベント事に全力過ぎるんだ。この学校は。


「もうすぐ新人戦かー。初戦どこと当たるかなあ」
「女バスは何日からだっけ」
「三日。そういや仁王先輩とどうよ」
「なんもねーよ」
「おい明日香ー!お前からもなんか言ってやれー!」
「写真の焼き増しも承っておりまーす」
「いらねーよ」
「なんの話だよ」


だるんだるん。私までだらけてきてしまった。これではいかんとずり落ちていた椅子にきちんと座り直し、沙耶のさらけ出された太腿を叩いた。ちょっと固かった。

しかし、このだるだるを引き締め直す特効薬が五時間目に待っていた。それは二度目の祭り、文化祭である。新人戦や中間テストをこなしつつの準備になるので大変なのは間違いないのだが、やはり年に一度のビッグイベント、学級会は大いに盛り上がった。

まず上がった候補は定番の飲食系。しかしこれは他のクラスと競合する可能性が高く、くじで落ちた場合は第二、第三希望の残り物になってしまう。その上、飲食系の枠は三年生が三枠なのに対して、二年生は一枠しかない上、品が重なった場合は三年生が優先される。ハイリスク・ハイリターンな出し物なのである。

よって我がクラスは面倒な競合を避け、他のクラスが出してこないであろうものを考えることとなった。しかしこれが意外に難しい。


「ストラックアウトは?」
「女子の客が入りづらい」
「じゃあお化け屋敷」
「ベタ過ぎ。他とかぶる」
「鬼ごっことか」
「雨降ったらどうすんのよ。体育館は使えないからね」
「メイド喫茶!」
「衣装用意できないでしょ」
「輪投げ」
「地味すぎ」


いちおう学級委員長が黒板には書き連ねて行くのだが、どれこもれもいまいちピンと来ない。定番ものから奇をてらったものまでいろいろと出た。担任も案出しを手伝おうと、前にどういうものを出したクラスがあった、あれは良かった、これは駄目だったと過去の話を教えてくれた。それでもいまいちピンと来ない。


「俺んちダーツあるけど駄目?縁日の射的のお洒落番って感じで」


議会が煮詰まりかけたとき、一人の男子がそう言って声を上げた。ダーツならたしかに誰でもできるし、教室内という限られたスペースでもできる。こうしてひとつきっかけになる案が出ると、他にも毛色の違う案がぽんぽんと出始めた。

まず、ダーツだけだと持たないだろうから雰囲気を合わせてトランプも入れようという案が出る。それなら衣装は黒いシャツがいいと誰かが言い、担任もそれくらいなら予算内で収められると頷いた。じゃあトランプはポーカーを入れよう、ルールを知らない人もいる、だったらルールは簡単だから役をポスターにして貼っておけばいい、エトセトラ。

最終的に我がクラスの出し物はダーツ、ポーカーでそのまま通り、衣装は黒シャツに下は制服、テーマは大人っぽいバーの雰囲気を目指そうということで決まった。大人っぽいバーという表現に担任が笑っていたが、所詮私たちは中学生。その辺は映画やテレビで見たくらいの知識しかないのだ。みんなもみんなで「どうせ先生は安い居酒屋しか知らないくせに!」と言い返していたのであいこだろう。まあそんなものだ。


そして、私と明日香ちゃんの写真撮影も今日の分でアップとなった。考えていた構図はひと通り撮り終わり、あとは文化祭に向けて大判写真の選別、それに販売用の体育祭の写真を整理するらしい。候補を出したら佳澄にも選んでもらうからね、と言っていたので私はそれをそれを待とうと思う。

鼻歌交じりにハンとジンと駆ける帰り道。楽しいことが続いて気分がいい。明日は久しぶりに緑地公園へ行って、ハンとジンとたくさん遊ぼう。




足取り軽く

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