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乙女心と秋の空



本日は体育祭翌日の日曜日のため学校は休み。部活動も体育祭があったことを配慮してどこも休みになっていたのだが、私たちは休日出勤よろしく、休みの学校へとやって来ていた。


「体育祭さまさま!校庭が使えるって素晴らしー!」


そう、部活動が休み、イコール普段は使えないような場所も撮影に使えるということで、恐らくこのチャンスは一回きりしかないと鼻息荒く力説する明日香ちゃんに引っ張ってこられたのだ。そして、普段ならこの場にいない人物がもう一人。


「あたし本当に見てるだけでいいの?なんか手伝う?」


明日香ちゃんの少し後ろ、段差になっている場所に腰かけている沙耶である。明日香ちゃんは「沙耶の仕事はもう少し後だから!」と満面の笑みで返している。もしかしなくともあの野郎のことである。思わず顔が引きつった。


「佳澄、後ろ向いて両手広げて。そうそう、あとハンとジンがこっち向くように指示できる?」
「そっちで名前呼べば向くよ」
「ハン!ジン!ちょっとだけこっち見ててねー」


今日はスペースを広く使えるということで、広角レンズや望遠レンズを使っての撮影がメインだそうだ。それに加えて走ったり跳んだりと、いつもとはだいぶ趣向の違う写真を撮ることができた。頃合いを見て、そろそろ休憩にしようかと提案してきた明日香ちゃんはあからさま過ぎる笑顔でウインクを飛ばしてきた。もうちょっとこう、頑張れの一言くらいあってもいいと思う。こいつ楽しんでるだけだ。

ハンとジンの飲み水を用意し、沙耶が投げてくれたお茶を受け取り、適当に腰かけてお菓子を広げる。まずは遠くから攻めて徐々にその話題に…と画策していたのだが腰を落ち着けて早々に謀反に遭った。言わずもがな、明日香ちゃんである。


「実は佳澄から沙耶に恋愛相談があるそうで!」
「おいてめえ!!」
「れん、あい…?」
「だって回りくどいと時間なくなっちゃうし。ほらほら!私も気になってたんだからさー!」
「恋愛相談って、まさか」


私の直感が言っている。とにかく顔を隠しておけと。

沙耶が二の句を継ぐより先、私はセーラー服の上着を引っ張りあげ、襟首から顔を出すような格好で俯いた。背中がとてもスースーするがそれは大した問題ではない。とにかく顔を隠せればそれでいい。


「仁王先輩か」
「…なんで一発で当てるんだよお…」
「マジで?ホントに?いややっぱりっつったらやっぱりなんだけどさ」
「ねえ仁王先輩って誰!?何組の先輩!?何部!?」
「いや、仁王先輩学校違うから。立海の人」
「きゃー!他校生!?ちょっと佳澄どこで知り合ったのよそんな人と!」


ばしばしと叩かれる背中が痛い。恐る恐る顔を上げてみれば二人の距離が予想以上に近くて驚いた。そして顔が真っ赤だと笑われた。うるせえ誰のせいだと思ってやがる。


「いつから好きだったんだよ。祭りんときは?」
「いつからって聞かれると、分かんない、けど…祭りのときは、もう…」
「ねえ祭りのときって何!?ちょっとー!私にも分かるように説明してよ!」


またばしばしと背中を叩かれる。これは顔だけでなく背中まで赤くなっているのではないだろうか。頭の上に引っかけていた制服を外し、背中を守るために布一枚分の厚さを確保する。これでもないよりはマシなはず。しかしやはり、二人の顔を見て話すことはできず、視線は相変わらず地面の上に落としたままだ。

そして明日香ちゃんにも分かるように、ひょんなことから仁王先輩という人とハンとジンの散歩をするようになったのだと説明した。それだけで分かるかと髪をぐしゃぐしゃにされた。もう明日香ちゃんテンション高くて扱いが面倒臭い…。


「ほら、前に変質者出たことあったでしょ?あのときいろいろあったんだって」
「あーあのとき…って結構前じゃん!それからずっと!?」
「…毎日じゃないからね」
「へーほーふーん。ねえさーや、その仁王先輩ってイケメン?」
「だと思うよ。銀髪色白で目つき悪くってさ、変な人だけど」
「銀髪!?不良!?」
「ではない、と、思う…。変な人だけど」
「変な人なんだ」
「「うん」」


それだけは間違いない。自信を持って言える。しかし明日香ちゃんが根掘り葉掘り聞いてくるおかげで肝心の相談を全くできていない。試合を見に行ったときにどうのこうと説明させられ、一緒に犬の散歩とか夫婦かと突っ込まれ、実際はハンとジンの取り合いなんだと必死に反論するも、沙耶と明日香ちゃんがグルになってからかってくる。もう相談どころではない。

だが、私とてからかわれっぱなしの負けっぱなしでいるようなタマではない。とっておきの武器が私にもあるのだ。


「明日香ちゃんにいいことを教えてあげよう」
「え、なに?馴れ初め?」
「ちげーよ。私のことじゃねーよ」
「は?おい佳澄、お前まさか、」
「沙耶には彼氏がいるんですー!しかも先輩!しかも立海!」
「おいてめえ!!なに人のこと売ってんだよこら!!」
「うっそ、さーやマジで!?ちょっとその辺詳しく!彼氏ってどういうこと!?」


ぎゃーぎゃーぎゃー。まさにそんな擬音がよく似合う。どつきどつかれ首を絞め、沙耶に追いかけられながらも必死に幸村先輩という立海テニス部の部長…あ、元部長さんと付き合っていると大声で言いながら走り回る。ハンとジンも一緒になって走り回り、沙耶は仕返しとばかりに「仁王先輩の白髪野郎ー!」と叫んでいたがこれはあまり仕返しになっていなかった。

結局、まともな相談もできない内に沙耶は件の幸村先輩に呼び出され、顔を真っ赤にしながら学校を後にしたのでした。仕返しされないように今度は深雪も呼んで相談しようと思う。

…と、呑気に構えていた私だが、もう少し頭が回っていれば幸村先輩の知恵を借りた沙耶の仕返しに遭うこともなかったのだろう。後悔先に立たず、である。




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