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愛しいに似た誰か


さくり、さくり。踏みしめた地面の下、霜の折れる感触が楽しい季節。つまり冬だ。まごうことなき冬だ。愛犬たちが普段以上に輝く季節の到来である。

私は安売りしていたスポーツウェアに袖を通し、変質者対策並びに愛犬たちとの戯れのためのジョギングに勤しんでいた。今のテンションを一言で表すならば“お察しください”だろうか。右手に持ったデジカメのメモリーはすでに残り少ない。

もうじきテスト週間に入るから、愛犬たちと遊べる時間はまた短くなってしまう。そうなる前に少しでも長く、一緒に、冬を満喫しておきたいと思うのは仕方ないだろう。冬休みになれば雪の降る親戚の家まで遊びに行くけど、やっぱり若者は今を大事にせねばならんね、うん。


「佳澄姉ちゃん今日も公園行くの?」
「行っちゃ悪いか」
「変なのって思ってさ。俺の姉ちゃんなんか冬は絶対外に出ようとしないのに」
「ああ、それでパシられてんの」
「うっせー!」


ジョギング中、コンビニの辺りで近所の少年に遭遇した。かさりと揺らされたビニール袋の中には見慣れたアイスのパッケージが透けている。…お姉さんは天の邪鬼タイプか。

良く言えば純粋、悪く言えば単純な少年はアイスを届けたら公園に向かうらしく、ついでだから家まで一緒に行こうよと誘われた。特に断る理由もないので仕方ないなと適当に頷く。あ、笑った顔は可愛い。


「佳澄姉ちゃんってさ、いっつもフリスビーやってるじゃん」
「そうだね」
「大会とか出るの?」
「あはは、考えたこともないわ。どこでやってるのかも知らないし」
「もったいねー」
「もったいなくねー」


佳澄姉ちゃんたちだったら優勝できそうなのに、と拗ねたような顔をする少年。なんとなく照れくさくて少し乱暴に頭を撫でてやった。それから無事お姉さんにアイスを届けて、公園へ向かって、この前テレビで見た技を真似したりして遊んだ。

この時期は暗くなるのが早いのが難点だな。鐘が鳴ったと同時に帰る少年に手を振り、しばらく愛犬たちと遊んで遠回りしながら帰路につく。暗い夜道、人通りは相変わらず少ない。もう冬だしみんな家から出たがらないんだろう。私もハンとジンがいなかったらきっとそうだ。

街に出たらそこかしこから聞こえるクリスマスソングを口ずさんでいると、少し先の角から白髪頭の男の人が曲がってきた。進行方向は私と同じ。長めの髪を一つにくくった目立つ風貌で、思わず歩調を緩める。ヤンキーか。ヤンキーなのか。なぜか両手いっぱいに紙袋を持っていて歩くのが遅い。くそ、距離が詰まってきた。


(あ。あれ全部プレゼントなんだ)


自動販売機に照らされ、袋の中身が一瞬見えた。綺麗にラッピングされたプレゼントらしき物体。あんなにたくさんもらうなんて相当な人気者なんだなあと感心半分、呆れ半分で眺めていたのも一瞬。その内のひとつが紙袋から落ちたのだ。男の人は気付かずに進んでいく。暗い夜道、人気は以下略なので当然私以外に気付いた人間はいない。…仕方ない。


「あの!これ落としましたよ!」


急いでプレゼントを拾い、男の人に声をかけた。足が止まり、白髪頭がゆっくりとこちらを振り返る。そしてその目を見た瞬間、息の仕方を忘れた。


「ああ、すまんの。助かった」


鋭い、目。直感的にそっくりだと思った。白髪じゃなくて、あれは銀だ。そう思えばなおのこと、似て見える。

その人は両手が塞がったままだったから、紙袋の一番上に落としたプレゼントを置いた。これじゃまた落ちるだろ、などと考える余裕はない。方向が同じだからと並ぶ勇気もなかったから、適当な脇道に逸れてとりあえず逃げた。だって、あんな人を見たのは初めてだったから、こんなことを思ったのは初めてだったから、頭が整理できない。


「ハン、ジン…あの人ものっそいシベリアン・ハスキーそっくりだった」


ハンとジンが人になったらきっとあんな感じなんだろうな、と興奮冷めやらぬ内に沙耶に電話をかけたら心底うざがられた。そういう日もある。



愛しいに似た誰か

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