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向日葵のように



仁王先輩と共にフードファイト観戦中のところに合流すると、気のせいだろうか、みんながこちらを見て固まったように見えた。


「幸村ともう一人ぬ姿が見えねーと思ったら…」
「いったーもそういうことかー!?」
「そん口縫われたいんか」
「仁王先輩顔やばいです。ヤンキーじゃなくてヤクザですそれ」


言いたいことはだいたい分かった。どういう勘違いをされたかを理解して顔がかっと熱くなったが、こういうときこそ冷静に、それこそどこからかノートを取り出した柳先輩のごとく冷静に、さらっと流さなくてはならないだろう。みんなの生温い視線には声を大にして反論したいし、かと言って仁王先輩に真っ向から全否定されるのは…まあ…ちょこっとくらいへこまないこともないが…いかん、冷静になれ佳澄。

私は努めて冷静に言葉を返し、深雪の影に隠れた。沙耶と幸村先輩がいれば矛先はすべてそちらへ向かうはずなんだ。早く戻ってきてくださいお願いします。

そんなことを願う私に、結果として助け舟を出してくれたのは幸弘だった。


「なあ、花火どうする?もうすぐ六時半になっけど」
「ナイス幸弘!それだ!」
「は?」
「あ、じゃあ先輩らも一緒にやりましょーよ!そんで花火買ってください!」


赤也てめえ。こいつのおかげで希望が絶望へ華麗なるジョブチェンジを遂げた。花火を口実に沙耶を呼び戻してそのまま退散するという計画は五秒と待たず崩壊したのだ。もう一度言う。赤也てめえ。

私が無言で赤也の腕の皮を抓る傍ら、丸井先輩はりんご飴を頬張りながらにっかりと笑った。


「花火か。いよいよ夏休みらしいじゃん!」
「もうすぐ終わるがな」
「そうだ。お前たち、宿題は終わらせているんだろうな?」
「そうと決まれば移動するかのう」
「比嘉も来いよ。まだ時間あるだろい?」
「おい!貴様ら!」


乗り気な丸井先輩、涼しげな柳先輩、お父さんな真田先輩、無視する息子たち、そして再びお父さん。沖縄のみなさんも丸井先輩に続いてぞろぞろと歩き出したのだが、「で、どこでやんの?」と言って丸井先輩が立ち止まったせいで後続も停止。これに赤也と深雪がいつもの緑地公園でするつもりだと伝えると、一行はまたぞろぞろと歩き出した。真田先輩は宿題について問い詰めることを諦めたようだ。ドンマイお父さん。

沙耶たちに関しては「移動することだけ伝えて後で合流した方が、二人きりでいられる時間が長い」という理由で後から電話をすることになった。提案は柳先輩。さすが策士である。…いや、参謀だったか?まあそんな感じである。

そうして残っていたメンバーもぞろぞろと並んで歩き出し、神社を後にした。これからみんなには追加の花火を買いに行ってもらい、私は一度家へ戻ってハンとジンとバケツもろもろを迎えに行く。なんとなく予想はしていたが、分かれ道で仁王先輩は黙ったままこちらへついてきた。そして心なしか奴の歩調が速くなった気がする。そんなに会いたいのかこの人は。


「来るなら荷物持ってくださいよ」
「プリッ」
「…久々に聞きますね、それ」
「そうじゃな、俺がリードを二つ持ってやろう。おまんは残りの荷物を持つ。これでどうじゃ?」
「どうじゃじゃない!逆に決まってるじゃないですか!」
「はあ…。仕方ないのう。半々で妥協しちゃる」
「なんで仁王先輩に妥協されなきゃいけないんですか」


妥協してやるのはこちらだというのに。まったくもって身の程をわきまえない白髪野郎である。家へ着くなり真っ先にハンとジンとリードを確保しようとしたのには、叩くふりをして背中に草をくっつけてやった。すぐにバレた。仁王先輩のデコピンはとんでもなく痛い。

激しい戦闘の末、どうにかこうにか片方のリードは奪い取り、バケツの中にゴミ袋やロウソク、マッチ、懐中電灯、お土産、ついでにフリスビーを入れて家を出た。もちろんうんちバッグも忘れない。公園へ着くと、連中はすでに街灯下のベンチに大量の花火を広げて待っていた。


「お!佳澄たちやっと来たな!」
「あい!シベリアン・ハスキやしー!初めて見たさー」
「い、いぬ…!」
「寛、寛、わんぬ服が伸びる」


待ち構えていた赤也にバケツごと荷物を渡し、その中に入れていたお土産をジャッカル先輩に渡し(扱いが雑過ぎると深雪に怒られた)、ハンとジンに興味津々のモサリーヌさんと向き合う。部分白髪さんは田仁志さんの後ろにその細長い体を隠している。全然全くこれっぽっちも怖くないというのにもったいない人である。

服が伸びるだなんだと言い合う二人をじと目で見ていると、不意に服の裾を引っ張られた。先ほどのモサリーヌさんだ。


「な!な!こいつらなんていうばぁ?」
「名前ですか?ハンとジンです」
「…ゴンは?」
「いません」


ハンとジンの名前は少年漫画からとったのではない。偉大なる漫才コンビからとったのだ。わざとらしく唇を尖らせたモサリーヌさんだったが、みんなが花火に点火し始めたと見るや慌ててそちらの輪へと入って行った。

まず、赤也と丸井先輩がしょっぱなから両手に花火を三本ずつ持って振り回し始めた。当然のごとく真田先輩が二人を叱りつけたのだが、その顔の横を掠めるようにロケット花火が飛んで行った。飛んできた方向を見れば腹を抱えて笑うギャル男さんとモサリーヌさんの姿。そして始まる追いかけっこ。

遅れてやって来た沙耶と幸村先輩は追加の打ち上げ花火の準備を始め、しっとりと線香花火に興じていた深雪、柳先輩、柳生先輩のところには仁王先輩が点火したネズミ花火が突撃。部分白髪さんは蛇花火をじっと観察していて、幸弘とたっちゃんはいつの間にか仲良くなったらしいおかっぱくんと普通に花火をしていた。

田仁志さんは出店で買ったらしい焼きそばを貪り、ジャッカル先輩と坊主さんはハゲユニット…げふん。似た者同士仲良くなった模様。チョココロネさんは意外なことにハンとジンに興味津々で、お手とおかわりをして「なかなかやりますね」と鼻で笑っていた。仁王先輩がその後姿を撮っていたことは内緒にしておこうと思う。


「佳澄!ぼさっとしてるとパラシュート取れないよ!」
「え、待って待って!私も取る!」
「みんな用意はいい?じゃあ、点火するよ」


おぼろげな星空に花が咲く。

夏の終わり、哀しさを吹き飛ばすような眩しい一日だった。




向日葵のように

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