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全力疾走で逃亡


吐き出す息が白くなり始めた十一月。次第に愛犬のお散歩時間は伸びてくる。活き活き輝く瞳がなんとも眩しく、愛くるしい。ふわりと揺れる尾に、色を失いつつある世界に輝く冬色の瞳がその魅力を以下略。

今日は立海中の近くまで散歩に来た。辺りはすでに暗く、部活動帰りの生徒とすれ違うこともない。私はというと、この馬鹿みたいに広い敷地とでかい校舎に圧倒されているところだ。これが格差社会…うちの校舎が幽霊団地に見えてくるぜ…。まあ、移動教室とかしんどそうだからそう羨ましくもなかったりする。

そんな立海中の周りをぶらぶら歩いて、歩いて、歩いて…後悔したのは三十分ほど経ってからのことだ。ぐるっと一周して帰ろうと思ったのにいつまで経ってもその一周が終わらない。ありえない。なんだよこのマンモス校。盛大な舌打ちが暗い夜道に響く。

それまで、人とすれ違うこともなく歩いていた。だから鼻唄も歌ったし舌打ちもした。誰もいないと思っていた。だけど道路と歩道がある以上、全く人通りがないというわけでもなく。


「こんな時間にお一人ですか?」


そんなことも頭からすぽーんと抜け落ちていたせいで、不意に声をかけられ面白いほどに肩が跳ねた。私の気配に釣られたらしい愛犬たちが低い唸り声をあげる。恐る恐る振り向いた先にいたのは…。


「…ハン!ジン!ダッシュ!!」
「え、あの、」
「ひいいいいい!」


やばいやばいやばい…!眼鏡に半袖半ズボンで汗かいててなんか息が荒いとか完全にアウトー!むしろ場外ホームラン!意味分かんない!口調が妙に丁寧なところがなおのこと怖い!なんだよ最近変質者ばっかり!私たちの安息のお散歩が台無しだよ!くそ!

心の中で悪態を吐きまくりながら、とにかく無我夢中で家まで走った。なだれ込むように玄関に倒れ込めば、途中からただ私と走れて楽しい状態だったハンとジンが嬉しそうにじゃれついてくる。そうね、いっつもお前たちだけ走らせて私は走らなかったもんね…。


「あら、今日はずいぶんハードなお散歩だったのね」
「まあねー…」
「汗が冷える前にさっさとお風呂入っちゃいなさいよ」
「はーい」


玄関でぐったりと寝そべり、じゃれつかれるがままになっている私に母がにやりと笑う。たしかにハードだったけどお母さんと私とでは認識に差がある。絶対に。はあ、と大きく息を吐き出すも、ハンとジンのキラキラした瞳を見ていたらなんだかどうでも良くなってきた。


「明日もまた走る?」


二つそろった鳴き声。変質者から逃げる体力をつけるためにも、愛犬たちのためにも、明日からは私も一緒に走るとするか。



全力疾走で逃亡

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