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変わるもの、変わらないもの


待ちに待った文化祭。飲食店や出し物はほとんど二、三年生がメインで一年生の出番はあまりない。右も左も分からない一年生の内は先輩たちの店を見て、来年以降燃えあがーれということらしい。まあ、ゆっくり見て回れるしいいシステムなんじゃないかな。ちなみに我がクラスはフリマ。それなりに盛況だった、と思う。

沙耶と回った先輩のお店はアイス屋だったり焼きそば屋だったり射的屋だったり、まるで縁日の出店のようで、自分たちも来年はああいうお店ができると思えば楽しかった。

あと人混みを抜けて裏庭に行ったら思わぬ文化祭マジックの現場を目撃してしまった。なるほど、こういうイベントもあるのかと頷く私たちはどこまでも他人事だ。


「でも片付けはめんどくさいね」
「飲食系とか外でやったクラスは特にそうだろうなー。道具とか重いし」


売れ残った商品を持ち帰る気にはなれず、適当にみんなで物々交換しながらの後片付け。美術部の子たちと協力して描いた看板を外すのは少しだけ寂しかった。

最後に担任の計らいで、私を含めた看板制作を務めた子たちを中心にしてクラスメイト全員の集合写真をパシャリ。後日、教室の後ろには大判印刷された写真が貼られていた。なんだかんだ生徒を大事にしてくれる担任で良かったと思う。

文化祭が過ぎれば冬はもうすぐそこだ。さすがの私も新しいマフラーを巻き、今日も愛犬たちの散歩に勤しんでいる。そういえばあれから公園には行っていないのだが、今日は行かなくてはならない理由があったりする。…ハンとジンが、切なげな目でフリスビーをくわえて玄関で待ってたんだ…。私にあの目を無視するほどの非情さはない。


「出ない。大丈夫、出ないから」
「何が?」
「出たあああああ!」
「…私、お化けじゃないわ」
「え、あ、お、みゆき…?」
「そうよ。お化けじゃなくて深雪」


公園の入口からきょろきょろと様子を探っていると、突然肩を叩かれて悲鳴をあげてしまった。不可抗力。振り向いた先にいたのは拗ねたように口を尖らせる深雪で、一瞬『こんな美人な幽霊なら…』と邪な考えが頭を過った。不可抗力。


「それで、佳澄はこんな所で何をしていたの?」
「ハンとジンにせがまれて来たけど、この前ヤバイおじいさん見かけたもんだから警戒してた」
「変質者?」
「あ、その考えはなかった」


こてん、と首を傾げた深雪はもともと非科学的なものを信じない気質なためか、最も現実的な推測を口にした。そうだ、幽霊なんかより先に変質者である可能性の方が高いじゃないか。なんだ、安心…できねえよ。それはそれで問題だよ。

私が戻るか否か考えている間、深雪は慣れた手つきで片方のリードを掴んでさっさと公園内に入って行ってしまった。小学校の頃はよく一緒に散歩したから勝手知ったるなんとやら、か。よし、私も腹を括ろう。


「もし変質者が出たら学校と警察に連絡しないと」
「うん。深雪のその変に度胸があるところ好きだよ」
「よく分からないけど、ありがとう?」


また首を傾げた深雪にこれ以上は通じないだろうと話題を変えた。どうして深雪がこんな時間に一人で公園にいるのか気になったのだ。すると深雪はふ、と表情を和らげて、


「佳澄に会えるような気がしたから」


と答えた。惚れてまうやろーー!

思わず顔をそむけ、赤くなっているであろう頬を押さえる。深雪は昔から思ったことをどストレートに口にするところがある。逆に言えば思っていないことは言わない。それが分かっているから余計照れる。

どうにか手の平で仰いでやり過ごそうとしていると、不意に深雪が『あ』と小さく声をあげた。それに釣られて視線を動かせば、公園の入口で長身の男の人が何かを探すように辺りを見回しているのが視界に映る。あれは…立海の制服?


「柳先輩だわ。誰かを探してるのかしら」
「柳?立海の先輩?」
「あら、佳澄も知ってるでしょう?」
「そんな先輩知らな…ああ!?もしかして二小の!?え、背高っ!」
「ね。私も最初はびっくりした」
「いやいや…びっくりっていうか別人じゃん…前は女の子みたいだったのに…」


柳先輩は私たちと同じ神奈川第二小出身。ちなみに私が知っている柳先輩はおかっぱで細身の女の子みたいな姿だ。あんな巨人じゃなかった。

すらりとした長身の柳先輩(仮)はしばらく公園内を見回した後、中には入らずに帰ってしまった。いったい何をしに来たんだろうかあの人は。小学校の頃から謎な人だとは思っていたが、今はさらに拍車がかかっている気がしないでもない。


「月日の経つのは早いね」
「光陰矢の如しね」


しかし私の身長がいっこうに伸びないのはなぜだろう。とても不思議に思った夜だった。



変わるもの、変わらないもの

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