卒業論文が
終わらない




抱き枕


夜の9時を過ぎた頃になると、俺の生活リズムに合わせようと必死に目を擦っていたガキがソファに倒れる。最近エミさんに勉強を習い始めたおかげか、簡単な絵本を読んでいる事が増えた。その分頭を使うのか昼寝したり夜寝るのが早くなったりしている。

「おい、寝るならベッドいけ」
「…………にゃ、ぅ」

何がにゃうだ、お前は猫か。既に風呂も済ませて寝巻きだし、あと数メートル歩いてベッドに潜る程度の労力も残しておけないのか。だが暖炉に火が入っているとはいえ流石に夜は冷え込む。このままこいつをソファに放置したら風邪を引きかねないし、ベッドに運んでやるしかない。

「…………くそ」

限界ギリギリまで俺を待っているなんて誰に言われずとも分かる。散々な扱いをして俺のことを嫌いになって、そうしたら何も考えずに囮としてシゴいて捨てられるのに。何でコイツは飽きもせずひよこのように俺の後を着いて来たがるのか。

「重くなったな」

起こさないようにそっと抱えれば以前よりずしっと両腕にかかる重み。拾ってきて半年くらい経ったか、最近は膝だの足首だのが痛むと言っていたし身長も伸びるのだろう。髪も伸びて艶が出てきたし、野良犬そのものだったあの頃とは天地の差だ。

「……おい、離せや」

ベッドに下ろして布団に入れてやり、仕事の続きをしに戻ろうと身体を起こした。寝間着として使っているパーカーの襟元にしがみついた手のせいで上手くいかなかったが。そういえばこういう離れたがらないような行動も増えた気がする。

「…………ぞ、ぅ……えなぃ、の?」
「まだ寝んわ」
「ぅ……」

ガキは目を擦ってせっかく寝かせた身体を起こした。寝てる間ほど静かなものは無いというのに、素直に寝る気はないのか。

「はよ寝ろ」
「ぞむ、も」
「…………」

思わずどデカいため息をつく。俺と一緒に寝たいから我慢すると?一体何時まで待つつもりだ。そもそも俺のベッドに居候してるのはこのガキで、俺は仕事が片付いたら自分のベッドに戻るに決まっている。
アホなことを言い出したガキをベッドに叩き込み、暖炉の燃え続ける薪を細かく砕いて灰を掛けた。朝まで燃え上がることはなくじんわり熱を発し続けてくれるだろう。

「ぞむ」
「あー、寝るぞ。戻れ。いや戻すわ」

眠気に無理やり抗って暖炉の面倒を見る俺の元へ歩いてきたガキを小脇に抱え、ベッドに放り投げる。ガキはベッドで跳ねるのが楽しいのか日中退かすのにこれをやるとくふくふと笑うのだが、流石に今はそんな元気はないらしい。

「はよ寝ろ」
「ん……ぉは、よ……ぃ」
「おやすみ」

時間ごとの挨拶は随分前にきちんと使い分けが身についていたが、流石にここまでぼんやりしていると怪しい。言い直すことも無く寝息を立て始めた子どもの身体は冷え始める部屋では貴重な熱源で、布団の中を温め始める。
ほんの少し寒気を感じて子どもを抱き寄せればぽかぽかとどこか安心する温度で、寝るふりをして仕事に戻るつもりだった意識をあっという間に刈り取っていった。

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