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 たまに物凄く長時間見つめられてることがあるんだけど、これはなんなんだろうか。
 私が家事に部屋をうろつき回っていても、それを追って見てくる。片時もやめずに見続けてくる。観察されてる。見るのは別にいいんだけど、アンタもなんかやりなさいよ。

「だらだらしてるだけ? 暇なの?」
「いいじゃねえか、別に。俺の当番分は終わってんだよ」

 家事は当番制。料理は、居候の家賃代わりに食材費も含めて全部私が担当している。洗濯は曜日によって交代していて、掃除は週に一回どちらかがやる。
 言葉通りに洗濯はすでに終わらせていて、残った休日を平和にだらだら過ごしている。膝に頭を預ける愛猫を撫でつつ、掃除に歩き回る私をずっと見ている。私が点けたテレビを見ることもせず、何が楽しくて私のすることを見ているのだか。

「暇なら手伝ってよぉ」
「嫌なこった」
「ケチ」
「今週の当番はお前だろうが」
「いいじゃーん」
「見返りは有るのかよ」
「え?」

 見返りぃ?

「お駄賃とか?」
「バァカ、子供じゃねえんだ」
「えー、じゃあ何が欲しいのよ」

 ソファー前の机の上のものを整理しつつ、サスケを見上げて問う。今もこちらをじっと見つめたままの彼と目が合って、照れくさくてすぐ机に目を落とす。なに笑ってんのよ。

「誕生日プレゼントとかな」
「はあー?」

 何を言っているのだか。

「そんなの、手伝わなくてもあげるわよ」
「……そうか」
「バカはアンタのほうじゃない。忘れてるとでも思ったの?」
「まあな」
「ひっどい」

 イベント好きだって知ってるでしょうが。
 ちゃんと今日はご馳走の準備だってしてるし、2週間前にはプレゼントも買い終わっている。あれこれ悩みすぎて、結果的にちっとも面白くないものを買ってしまったけど、たぶんアンタは喜ぶと思うんだよね。(ネタに走って猫柄のお箸とかあげても良かったんだけどさ)
 去年は当日に知らされるという逆ドッキリのために何も出来なかったから、今回こそはと真面目に祝うことにした。

「ほんとはさー。みんなも呼んでパーティーでも催すべきかなとも思ったんだけどさ」
「やめろ」
「まあそう言うと思って。やめときました」

 残念だけどね。私はわいわいする方が好きだけど、アンタは嫌がるでしょ。分かってるわよそれくらい。みんなにも素直に祝われればいいのに。
 ……ん? 私には素直に祝われてくれるわけ?

「……」
「なんだ」
「……別に」
「何を照れてんだ急に」
「照れてなんか、ないですぅー」

 いや、ほんと、見すぎだから。
 彼にちらっと目をやると、必ずこっちを見ていて目が合う。私が気にして見てしまうのを面白がっているのだろうか。……うん、たぶんそうだ。

「アタシを見るのがそんなに楽しいの?」
「ああ」
「即答って……まあ、見るなとは言わないけどさ」
「けど?」
「…………その手元の抜け毛はアンタが自分で片付けてよね」

 無意識で撫で続けていたのであろうマオちゃんの、完全ではなかった換毛の抜け毛がふわふわ散らかっている。今朝もブラシ掛けたんだけどなぁ。
 だけどサスケは素知らぬ振りで、ちらりと手元を見てからまたすぐ私へ視線を戻す。

「今日の掃除当番はお前だろ」
「む、コラ! わざと毛を散らかすんじゃない!」
「ほら、片付けないとな」
「もー!」

 マオちゃんの、頭だけでなくお腹まで撫でて抜け毛をもさもさにするもんだから、そうでなくても毛だらけになるソファーが座れないほどになる。ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らすマオちゃんには悪いけど、今日はお掃除の日なのである。今朝ブラッシングしたんだから許してね。
 粘着コロコロを棚から取り、サスケの座るソファーに向かう。彼は時々、いや割とよく、子供みたいなイタズラをする。口論が低レベルだとやることも低レベルになるのか。

「はいはい、綺麗にしますよー」
「! んにゃ、」
「あぁ、行っちまった」
「マオちゃん、コロコロ苦手だよね」

 すぐさま起き上がってソファーからひらりと降りて、スタスタとそこから離れる。別の部屋には移動しないものの、粘着コロコロを持った私からは十分に距離を保っている。
 ソファーの布地と、ついでにマオちゃんがもたれていたサスケの脚にも粘着シートを転がす。だけどすでに毛でいっぱいになっていたせいでちゃんと掃除できないので、仕方なく一枚めくる。

「粘着シートの消耗が激しいなぁ」
「掃除機使えばいいだろ」
「いやー、さすがにそれはマオが可哀想かなって」

 掃除機やドライヤーなど、モーター音がする機械はとにかく苦手だ。点けた瞬間のびっくり顔はかわいいのでいじめたい気持ちもあるし、部屋の隅で「別に怖くないですけど?」って顔で無理矢理そっぽを向いていたりするのもかわいいけれど、やっぱり怖がっているのには違いないし、それは一日に一回までにしておいてあげたい。この後家中に掃除機をかけます。

「ほい、コロコロしますよ〜」

 改めてサスケの脚に付いた毛を掃除するために、粘着シートを転がす。やあ、よく取れますね。大漁、大漁。

「ほら、手も。飛んだ毛が袖まで付いてるから」
「おう」

 甲斐甲斐しくお世話をしてあげているなぁ。別にイチャイチャしてるわけではないんだけど、こう、『身内』になったって感じだ。
 そうしている間にもずっと視線を感じるので、またちらりとサスケの顔を見る。うん、見てる。なんですか。そんなに面白いですかね。

「見ーすーぎっ」
「いいだろ、減るもんじゃなし」
「んむむ……そりゃ悪い気はしないけど、こう……居心地は悪い」
「照れてるって素直に言え」
「別にそんなんじゃないし」

 ここまで何度か否定した手前、意地になって認めない。
 綺麗にしたばかりのソファーへ腰を下ろして、毛だらけの粘着テープをめくろうと爪でカリカリこする。すると隣から肩に腕を回されて、作業妨害される。

「もー、今めくってるの」
「ああ」
「“ああ”じゃなくてー」
「ほんとかわいいな、お前」
「! な、ん……なに、よ、バカ」

 急に、何を言い出すのだ。
 テレビの雑音が遠くなって、サスケに言われた言葉がこだまする。かわいいって、かわいいって、……滅多にそんなこと言わないくせにィィィ!
 身を寄せたサスケの頬が頭に当たる。クーラーは点いているけど、体の内側から暑くなってくる。

「は、……離れなさいよー……」
「嫌だね」
「むー……」

 正直に言うと嬉しい。恥ずかしくて自分からじゃなかなか接触できないから、あちらから来てくれるのがとても嬉しい。だけれど態度まではなかなか素直になれなくて、口だけは嫌がってしまう。
 なんでもない振りをしながら、コロコロのシートをようやくめくって、クシャクシャ丸めてゴミ箱へポイ。だけれどコロコロのカバーは少し離れた机の上に置いていて届かない。でも離れるのは勿体ないし、だけどこのまま何もしないでじっとしてるのも恥ずかしい。離れたくないのがバレる。

「……」
「…………」
「…………な、……なんか話すこと無いの」
「……フッ」
「ぬぬ、なんで笑うのさ……」
「くく、もう一度言われたいのか?」
「え? なにを……、あ、いや、ケッコーデス」

 かわいいって思われてるんだぁぁぁぁぁああ恥ずかしい
 察してしまって余計に照れる。なに、もう、ズルい。ズルくない? アンタだけ余裕綽々なのズルい。

 相変わらずテレビの音は遠くて、マオちゃんは部屋の隅で香箱を作って落ち着いているし、隣の彼は楽しそうに笑ってる。クーラーの利いた部屋で私だけが暑い思いをしながら、膝に置いたままのコロコロをいじりながらいじけている。

 後で目一杯お祝いして、逆に照れさせてやるんだから覚悟してなさいよね!



(170723)
『確かに恋だった』様より
恋する動詞「見つめる」


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