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宣戦布告



「前回は豚肉だったので、今回は、鶏肉です!」
「……肉」
「芸が無くてすまないね」


―宣戦布告―


地図とコンパスを返し、更に助けてもらったお礼の品を渡すために、3度目(カカシは2度目)のお宅訪問。今度はちゃんと方角を合わせたコンパスを使い、カカシに地図を見てもらったので、迷わず来れた。サスケは手渡しのそれを受け取り、袋の中の箱を少し見た。


「……焼いて食べるか」
「美味しそうだね」
「食うか?」
「え、いや、言ってみただけです、そんな……」


早速、と言わんばかりに調理場へ行き、紙袋の中から箱を取り出し、更にその中から美味しそうな鶏肉を出した。なまえはそれを見て思わずまた「美味しそう……」と呟いてしまい、隣のカカシに軽くポカリと叩かれた。サスケはちらりとその様子を見、大きな肉塊を包丁で三等分に切って、それを更に食べやすい大きさに切っていく。


「丁度腹が減っててな」
「あ、オレらの分はいいのよ、作らなくて」
「うん、そうそう」
「……フン」


鶏肉を切りながら、楽しみなのか、サスケは尻尾を左右にゆらりゆらりと揺らす。その様子を見ていると余計に美味しそうに思えて、なまえは後ろを向いて溢れてくる唾液を飲み込んだ。お腹まで鳴りそうだ。サスケは野菜も取り出して切り、大きい調理鍋をガスコンロの火にかける。鍋が温まる間に鶏肉に調味料を振り、味付けをした。


「じゃあ、オレらはこれで」
「え、もう帰るの…?」
「長居は無用だよ」
「でも……」


熱い鍋に油を少し多めに入れ、ならす。そこへ肉を放り込んでいき、半ば揚げるように焼く。良い薫りがし始め、なまえは思わずまた喉を鳴らす。お昼時に来たのが悪かった。その上に野菜を投入し、炒めていく。とどめに特製のタレと思われるものを入れ、余熱で温めながら絡ませる。よだれが止まらない。


「……要らない奴は帰れ。食べたい奴は残れ」
「カ、カカ兄ィ〜……」
「……ったくもう、しょうがない子だね」
「やった!」


実はカカシも、漂う匂いに負けそうになっていたのだ。なまえは尾を振りながらサスケの元へ行き、皿を出したりなどを手伝い始める。カカシはなまえを追ってサスケに近付き、何を企んでいるのかと疑いながら、「すまないね」と一言言う。


「わぁあ、お、美味しそう…!」
「…フッ」
「え、あ、笑われた…」


照れるなまえと、その横を料理を持って通るサスケ。なまえの尾は止まらずにずっと動いていて、誰の目から見てもサスケに懐いていることは明らかだ。カカシはそれを見て危険を感じた。このままではやばい、と。この猫に妹を取られてしまう気がした。


「相変わらず食いしん坊だな、お前」
「え…? “相変わらず”って……」
「昔お前、街の路地で汚い猫を拾ったろ」
「へ、な、なんで知って…」
「あ! まさか、…お前はあの時の…!」


カカシが驚いたように言えば、サスケは不敵な笑みを浮かべた。なまえはカカシの言葉で分かったらしく、「ああ!」と一人納得。カカシはサスケを睨み、サスケはそれを受け流す。


「あの時の猫さんだったんだ!」
「ああ。あン時は世話になった」
「すごい偶然だね。素敵!」


机に料理を置き、小皿を二人で並べながら話す。カカシはふるふる震えながら、その様子を見ている。なまえの尾は激しく振られている。よっぽど嬉しかったのだろう。


「お前じゃなかったら、二度目に助けた時は、無視するか食ってたな」
「え、……」
「驚くことじゃないだろう」
「……そうだけど」
「そうビビるな。恩人には何もしねえよ」
「……ホント?」
「ああ」


一度止まりかけたものの、安心するとまた振り始める。座れとサスケが言えば、なまえは素直に席に着く。カカシにも目を向け、サスケは何も言わずに顎で示した。その態度にカカシの額に青筋が浮かぶが、なまえが居る手前その怒りを抑えている。


「た、食べて良い?」
「ああ」
「では、いただきます!」
「こらなまえ、行儀悪いぞ」
「だってえ」


それを見ながら、椅子が足りないのでサスケは立ったまま食べる。カカシは(譲られているという現状が癪なので)席を譲ろうかと思ったが、サスケはそれを無視。


「食わない奴は帰れよ」
「ぬっ、ぐ…」
「カカ兄も食べなよ、美味しいよ!」
「んん…」
「こっちは気にするな。行儀悪く食べるのが普通だからな」
「……」


犬族の間では、猫族は残虐で非道な最低なやつらというイメージがある。もちろん行儀も悪いし、礼儀も守らないものだとも思われている。それを知っていて、サスケは皮肉を言ったのだ。確かにそんな一面もある。しかしちゃんと、恩は忘れない。ただ、恨みの方が強く残り、それを晴らすために残忍なことをするのも事実。


「……いただくよ」


ようやく箸を付け始めたカカシを見て、サスケはフンと鼻を鳴らす。
昔、あんなに酷いことを言ったのに、そんなオレにまでちゃんと…。
少し感動しながら口に箸を運ぶと、カカシは一瞬固まった。耳と尾が上にビーンと立って、毛が逆立っている。


「かっっ、辛ァーい!!」

「えっ? 辛くなんかないのに…」
「これくらいの仕返しは構わないだろう?」
「ぅぁああぁ…! き、きひゃまぁ〜…!」


カカシの箸を見れば、先端に赤い粉がびっしりと、あたかも箸の色のように付いている。してやったりと言わんばかりのサスケの笑みに、カカシは口を押さえながら涙目の睨みをやる。しかし耳は下がっており、迫力に乏しい。


「水が欲しいならそう頼まなけりゃなあ」
「み、みづ、」
「この家に水道は引いてないからな、無駄だぞ」
「じゃあ水はどうやって?」
「川から酌んでくる。少し遠いから面倒だ」
「へえー、大変なんですね」


ちなみに電力の方は、地下に小さな発電機があるらしい。二人が呑気に話す間も、カカシは口の中で疼く全く消えない辛さに悶えている。サスケはカカシがちゃんと頼むまで、水を出さないつもりだ。冷蔵庫を勝手に開ける、なんて失礼なことは、たとえ猫族相手にでもしない。犬族の誇りにかけて。


「……水を、くれ」

「ん? カカ兄なんか言った?」
「聞こえなかったな」

「…っ、水を! くれ!」

「やっと言ったな」


サスケは冷蔵庫に行き、その中からペットボトルに入ったきれいな水を取り出した。それを渡せば、カカシはそのペットボトルにそのまま口を付け、グビグビと飲んでいく。おー、と感心しながらなまえが見る中、カカシはその水を飲み干した。


「ぶはっ、はー、はー、……死ぬかと思った…」
「あはは、カカ兄変な顔」
「なまえ! お前も少しはコイツに怒ったらどうなの!?」
「だって、昔カカ兄がサスケさんに酷いこと言ったのは事実だもん。私だって怒ってたでしょ、あの時」
「、…むう…」


尤もなことなので、カカシは言い返せない。サスケはペットボトルを拾い上げ、それを流しに持っていった。流しとは言っても、水道の付いてない、家の外に水を捨てるだけの場所だが。


「食わないと冷めるぜ」
「まともに食わせなかったのは誰だよ……」
「カカ兄が悪いんだって」
「酷いねお前らっ」


サスケはカカシを放って、料理に再び手を付け始める。それを見てカカシとなまえも食べ始めた。

特に感想は述べないものの、カカシはその料理を最後まで食べた。もちろんなまえも。サスケは満足げに口端を上げ、食器を片付け始める。


「あ、私がやるよ」
「そうか? 水と洗剤は無駄遣いするなよ」
「はい!」


敬語とタメ口が交ざり始めたなまえにふっと笑みを零し、サスケはその場を任せる。

椅子に座り、自然とカカシと対峙する形になる。カカシに少々睨まれながら、サスケはカカシをじっと見返す。


「……どういうつもりだ?」
「……何の話か分からないな」
「なまえをあんなに懐かせてどうするつもりだ、と聞いている」
「ああ、それか…」


サスケはカカシの質問の意図を理解すると、小さく溜息を吐いた。食器を洗うなまえにちらりと目をやり、またカカシに戻す。カカシはサスケを信用してはいない。まだまだ疑っている。


「先に言うが、手は早いぜ」
「! 貴様やっぱり…!」
「勘違いするな。獲物にして食おうってんじゃねえよ」


似たようなものだが、と付け足し、それでカカシは分かった。
コイツ、なまえを自分のものにするつもりだ、と。
猫族なんぞに可愛い妹を渡して堪るか!
不敵に笑みながら尾を揺らめかすサスケを、更に強く睨む。


「そんなことさせる訳ないだろう!」
「そんなのは結局、本人の意思だろ?」
「お前なんかに取られる訳にはいかない…!」
「…できるものならな」


サスケはガタリと音をさせて立ち上がり、なまえの元へ寄る。カカシが慌てて立ち上がる頃にはなまえの隣に居て、話し掛けていた。


「なまえ」
「ふえ、名前で呼ばれた……! はい?」
「俺のことは好きか?」
「え、うん。大好きだよ」


えへへ、と照れ笑いしながらそう言い、食器洗いを再開する。サスケはそれを聞くと振り返り、ガーンという効果音付きで固まるカカシに勝ち誇った笑みを向けた。


「カカ兄も好きだけど、それとは違う『好き』」
「そうか。俺もだ」
「ホントに!?」
「ああ」


顔を赤くして喜ぶなまえの肩に手を回して、顔を近付ける。「あ゛あっ!!」と叫ぶカカシの前で、サスケはなまえの額にキスを落とした。


「わ……」
「……嫌だったか?」
「ううんっ、そんなことないよ!」


激しく振られる尾を見れば分かる、嘘ではない。満足そうにサスケはなまえの頭を撫で、嬉しそうに笑うなまえの顔を見る。これを自分だけに向けさせるのには、もっと色々する必要が有りそうだ。

急いで食器の泡をボトルの水で流し、手も洗って、タオルで拭く。それが終わるとなまえはサスケに抱き付いた。カカシはそれを見て更に固まり、今にも灰になってしまいそうなほどげっそりしている。
尾を振りながらぎゅうと抱き付き、胸板に顔を擦り寄せるなまえが可愛らしく、サスケはまた頭を撫でる。


「サスケさん、また来ても良い? 今度は会いに」
「ああ。もちろんだ」
「迷わないように頑張るね! あ、ケータイ持ってますか?」
「一応な」


電話線も引いていないから、それが唯一の連絡手段。しかもこの辺りは電波が届きにくいので、家の一部でしか受信できないという。二人がアドレス交換をする間にカカシは復活し、なまえをサスケから引き離す。


「! カカ兄、何?」
「なまえ、もうコイツに会っちゃダメだ!」
「なんで!?」
「……」


カカシがなまえを説得する間、サスケはカカシを睨み続ける。
俺のものになる予定なのに、あくまで邪魔をするつもりか。


「相手は猫族だぞ、分かってるのか? 周りになんて言われるか…」
「知らないよそんなこと! 邪魔しないでよカカ兄!」


カカシの手を振り払い、なまえはサスケの元へ行く。今までこんな拒否のされ方はしなかったので、カカシは驚いてまたしても固まってしまった。サスケは傍に来たなまえが抱き付いたのを、放さないと言うように片腕を回す。まだ怒っているようで、カカシを睨みながら口を開いた。


「言っておくが、俺はお前が嫌いだ。あまり過ぎた事をすれば、いつだって殺す」


まあなまえが許せばだが。
そこは声に出さず、なまえに目配せで教えるだけ。

犬族は長い間戦闘の必要が無かったため、今でも争うことが必要な猫族に比べればどうしても力では劣る。実際犬族の中で戦闘専用の形態に成れる者は少なく、成れるのはその形態で闘う競技を仕事にしている、訓練を受けた才能有る格闘家、「バトラー」くらいである。それに比べて猫族は、ほとんどの者が戦闘形態に成れるのだ。それどころか、犬族にはあまり知られていないが、一部の者は更に恐ろしい姿になることも有るのだ。


「べー、だ」
「なまえ……」


がっくりと肩を落とし、カカシは諦めたと示した。
サスケとなまえは視線を交わし、勝った、とニヤリ口端を上げる。


「…分かったよ。オレの負け」
「ありがとカカ兄!」
「ただし! あくまでもオレは認めない。……なまえに万が一のことがあれば、直ぐにでも別れてもらうからな」
「それはない」
「む、…それと、泣かしたら許さん」
「……」


それは諸々の事情上約束しがたいが、一応頷いておく。種族が違うのだ、習慣も違うし、風習、性格だって違う。泣かずに済む筈がないと思うのだが、頷かなければカカシが許しそうになかったのだ。


「じゃあ、今度こそ帰ろう」
「…うん。またね、サスケさん」
「ああ…」

サスケはドアから出ていくのを見送り、なまえとカカシは来た時と同じように地図とコンパスを使って帰った。なまえはこれからを楽しみに思いながら、カカシは危惧しながらの帰路であった。



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