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「勝ったぜ、大将」

第一部隊長として出陣し、誉を獲得して戻った薬研藤四郎が、自慢気でもなくさらりとそう挨拶する。敵将を討ち、本丸へ一番に帰城。その声音には、なだめるような優しい響きを薄く含んでいた。それを聞き、主たる審神者は五虎退の仔トラをあやす手を止め、挨拶を返そうと体を捻る。

「おかえりなさ……!」

しかし飄々とした薬研のその身には、赤く血の滲む切り傷があり、軽傷とは言え痛々しい姿だった。驚いた審神者は直ぐ様立ち上がるや、薬研の背を押しどこぞかへ移動を促す。

「大した怪我じゃない」

手入れ部屋へ向かっていることは、審神者の表情を見れば分かりきっている。薬研はややムスッとしながら言うが、審神者の押す手は弱まらない。後から続いて戻った鶴丸国永や鳴狐のお付きのキツネなどは、各々が誉を取れなかったことを悔しそうにぼやいている。山姥切国広や一期一振、最後に太郎太刀も戻ったが、彼らには怪我は無い様子。自分一人だけが手入れをされるほどに怪我を負ってしまったのが腹立たしいのと、悔しいのだ。しかし審神者の心配そうな顔を肩越しに見て、自分の悔しさよりも主の気持ちを酌んでやらねばと、先程と気持ちを切り替えて「気にすんな」と優しく続けた。

「気にしますっ!」
「ははっ、大将ならそう言うと思ったぜ。なぁに、怪我をするのも仕事の内さ」
「またそんなことを言って……」

背丈も審神者より少し低く、見目も幼い割に、薬研の方がよほど大人びた態度をしている。他の短刀たちは割合い見た目通り子供らしい所作を見せるのに、彼だけがこうも大人っぽいのは、彼が自身で言うように戦場育ちである故か。その広く包容力のある物言いや態度に、周りの短刀たちのみならず、打刀以上の者にまで頼りにされている。それを裏付けるように、今も彼の周囲には、透けた桜の花びらが舞っていた。



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