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素直じゃないところもかわいいね


 別に私は恭弥を待ってるんじゃなくて、家に帰ってもお母さんが家事手伝えって言うし宿題しなきゃならないしお菓子という誘惑があるから帰らないようにしてるだけだ。部活をしていた生徒たちも帰宅し始め、徐々に校舎から人の気配が消えていく。恭弥の所為でクラブに入れなかった私は部活友達や後輩というものが居ない。よって教室で一人寂しく夕陽を眺めている。
 コツコツと響く革靴の音。校舎内で土足でも許されるのはたった一人を除いて存在しないので、その人だと思って良い。時計を見上げると、下校時刻間近。見回りをする訳だ。いつもこの時間まで、もしくはもっと遅くまで風紀の仕事(最近仕事の範囲が広すぎることに気付いたので、本来教師や校長、さらに警察がするようなことまでやってるよな絶対、と思っているので『風紀の』とは言い難いかもしれない仕事)をしているので、恭弥と一緒に帰宅するには待つしかない。いや、今は別にそういう訳じゃないけど。単に家に帰りたくないだけだけど。


「バカなの?」
「…いきなりなに?」
「どうせ待つなら来れば良いのに」
「ああ、なんだ、もうこんな時間なんだ。ぼーっとしてたら時間過ぎるの早いなぁ」
「…」


 別に恭弥のこと待ってた訳じゃないし。この世の儚さについて考えてただけだし。
 ホントは早く過ぎたりはしなかったけど、なんとなくカッコ悪いから言わない。私の席の横に立って腕を組む恭弥は、見定めるようにこちらをじっと見ている。


「なんで来ないの」
「別に用事ないもん」
「無くても良いから来なよ」
「、…別に、そこまで恭弥に会いたいと思ってた訳じゃないし…」
「…」


 目を逸らしてぼそぼそと応答すると、恭弥が背中と学ランの間に手を入れるのが目の端に見えた。ま、さか、トンファー?
 思わず頭を庇うように身構え、目をぎゅっと閉じる。シャキン、と音がしたから、ビクッと肩が震えた。

 コン


「…ぅえ…?」


 痛くない。
 恐る恐る目を開けると、トンファーの先端が頭に乗っていた。殴られては、いない。
 恭弥は無表情をふと崩して、にこりと、らしくない微笑みを浮かべて言った。




 素直じゃないところも
      かわいい





 赤くなる私に背を向けて「帰るよ」と言った彼には、全て見透かされているようだ。


お題提供:《確かに恋だった》
『一枚上手な彼のセリフ』
「素直じゃないところもかわいい」
過去拍手(090405〜101009)


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