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試すような真似しても無駄だよ


「恭弥、」
「…なんだい」
「告白、されちゃった」
「……」


 なんて、嘘っぱちだけど。
 こんなこと言われたら流石の恭弥だって動揺するはず。何たって彼の独占欲は人一倍、いや、人二倍強いからだ。
 書類を片付ける手を一旦止めて、こちらを見てくる。それこそ、睨むように。たまには動揺すれば良いんだ。いつもいつもいつもいつも私ばっかりが良いように弄ばれてからかわれて、ちょっとくらいの仕返しは構わないよね。それにどのくらい私のこと大事に思ってくれてるのかも、分かるかもしれないし。一石二鳥だ!


「…ふぅん」


 それだけ言うと(いや、言うどころかただ息を吐き出すついでみたいに適当だった)、また書類に何かを書き込み出す。それ以上何も言わず、先程までと同じように黙々と仕事をする。つまり、何、スルーされた?

 …あんまりだ!


「……付き合っちゃおっかなー…なんて…」
「…ふぅん」
「結構かっこよかったしなー…」
「…そう」
「………」


 泣いても 良いですか?

 うわあん恭弥のバカヤロー! でも好き! なんでだ! 恭弥よりカッコイイ人なんていねーよバーカ! ベタ惚れの私のばかやろう…!

 頬を膨らませてソファに寝転ぶ。高級感漂う黒革は、見た目より柔らかで、寝心地最高なのだ。
 すると不意に恭弥はデスクから立ち上がり、給湯室へ入って行った。きっとカップが空になったから新しくコーヒーを煎れに行ったんだろう。暇な放課後に友達と遊ぶ約束も入れずに彼氏の元へやって来る一途な彼女に何のもてなしもしない彼は、しかし彼らしい。ちくしょーなんでこんな人好きになったんだ私…! いや理由は割と結構あるんだけどね。(顔は良いし意外と優しいこともあるし鳥と戯れる姿は可愛いしなにより、ちゃんと大事にしてくれているっぽいのだ、分かり難いけど)
 戻ってきた恭弥はデスクへは行かずに真っ直ぐソファへ来た。向かいの空いているソファではなく私の寝転んでいる方へ来たから、半ば慌てて起き上がる。


「はい、紅茶」
「えっ」
「…なんなの」
「いや、ごめん。…ありがと」


 ああもう、これだから離れられない。突き放したと思ったら抱き寄せるような真似をするのだから。
 湯気の立つ紅茶の入ったカップは、私が勝手に買って来て給湯室に置いていたもの。砂糖とミルクも横に置いてある。隣に座った恭弥は、自分のコーヒーに口を付けている。あくまで『ついで』ってことなのか? それでも良い!
 カップを受け皿に置いて、恭弥はこちらを見る。真っ直ぐな瞳に、ドキン。そして薄めの唇を動かして、こう言うのだ。




 試すような真似しても
       無駄だよ





 ばれてた!


お題提供:《確かに恋だった》
『一枚上手な彼のセリフ』
「試すような真似しても無駄」


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