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冒険の準備1


こ、こんにちは、初めまして、でしょうか。私はヒトカゲです。ちなみに名前はまだ有りません。今、今日から私のご主人と言うか、トレーナーになったサスケさんのお家に来ています。元飼い主のカカシの研究所からはそんなに遠くない場所です。ですが、普段はボールの中に居たり研究所所有の草原で遊んでいたりしたので、サスケさんには一度もお会いしたことはありませんでした。今思うとなんて惜しいことをしていたんだろうと思いますが、過ぎたことは悔いても仕方ありません。これからは毎日一緒なので、頑張ってご主人のために強くなりたいです。
それはともかく、何故サスケさんのお家に来たのでしょう? さっきは「ニビジムへ行くぞ」みたいなことを言っていたのに。何かご用事でもあるんでしょうか……。

「……ただいま」
「あら、おかえりサスケ。ま、その子が貰うって言ってたポケモン?」
「カ、カゲ」
「なんでも良いだろ」

この人は、サスケさんのお母さんでしょうか。とっても綺麗な人です……。サスケさんの容姿の良さにも納得できます。サスケさんは反抗期と言うやつでしょうか、お母さんに素っ気ないです。

「お、サスケ。帰ったのか」
「兄さん」
「カゲ……」
「ヒトカゲか。ボールに入れてないのか?」
「ああ、嫌がったから」
「そうか。可愛いじゃないか」

今度はお兄さん。顔に何かよく分からない線が入ってるけれど、サスケさんとよく似ています。土間で家の中に上がって良いのか悩んでいるままだった私に近寄って、サスケさんよりいくらか大きな手の平で頭を撫でてくれました。恥ずかしくて俯いてしまいましたが、手つきがとても優しいのが伝わります。やっぱりご兄弟なんですね、おんなじ感じがします。

「カ、カゲェ……」
「ん? サスケ、このヒトカゲ……」
「ああ、尻尾の炎が暴れてるのは恥ずかしがってるんだ」
「そうじゃない。メスか?」
「ん、ああ、カカシがそう言ってた」
「そうか、道理でなぁ。可愛い相棒ができて良かったな、サスケ」
「……フン」

お兄さんが少しからかうように言うと、サスケさんは家の奥へと入っていってしまいました。ああ、どうしよう、付いて入ってしまって良いんだろうか。オロオロしていると、お兄さんの手がぽんと優しく私の頭を叩きました。

「そんなに心配しなくても、入っても誰も怒らないぞ」
「カゲ…?(本当ですか…?)」
「ああ」

首を傾げてみると、ニコッと笑って頭を撫でてくれました。サスケさんよりももっと優しげで、話し方も幾分か柔らかい感じがします。とってもいい人です……。
照れてボッボッと弾ける尾の炎が余計恥ずかしい。短い両手で精一杯顔を隠そうとしましたが、あんまり隠せませんでした。

「そういえば、まだ名乗ってなかったな。オレはイタチ、サスケの兄貴だ」
「……カゲカ……」
「こんな名前だからってオオタチは持ってないがな」

ハハハ、と冗談を言って笑うイタチさん。するとその後ろからサスケさんが現れました。さっきは持っていなかったリュックサックを手に、家の中を歩き回っているようです。リュックの中に入れるものを探してるんでしょうか。こちらに目を向けて声を投げ掛けてきました。

「まだそんなとこに居たのか?」
「カ、カァゲカ…(サ、サスケさん…)」
「何してるんだ? サスケ」
「何って、旅の準備に決まってるだろ」
「旅に出るのか?」
「ずっとジムに挑戦してみたかったからな」
「母さんにはもう言ったのか?」
「ああ。“今晩は出発記念にちょっと奮発しようかしら”、なんて言ってたぜ」
「……ステーキとか出されそうだな」

全く止めないんですね、お母さん。もしかしてお兄さんも昔、旅に出ていたことがあるんでしょうか。それなら不思議じゃありませんね。

「ならサスケ、モンスターボールをいくつかやろう。後で部屋に来い」
「え、良いのか?」
「ああ。それと……そうだな、もう一つプレゼントをやろう」
「プレゼント…?」
「楽しみにしておけ」
「……」

イタチさんはサスケさんの隣を通って家の奥へ行ってしまいました。擦れ違い様にサスケさんの頭をくしゃりと撫で、優しい笑みを浮かべていました。サスケさんは、喜んでいるような照れているような怒っているような、ちょっと複雑な表情をしています。

「……カゲカゲ?」
「ん、……ああ、上がっても良いぞ。そこの雑巾で軽く足拭いてからな」
「カゲ」

私が声を掛けるとふと我に返ったようにそう言ってくれました。指を差した先を見ると土間の端っこに雑巾が置いてあります。おそらく、家の誰かのポケモンが上がる時にも、同じように足を拭いてから上がらせるんでしょう。軽く絞った程度に濡れている雑巾が常に置かれているんだからそうに違いありません。
言われた通りに足を拭いてから、家の中にお邪魔しました。私を待っていたらしいサスケさんは、私が上がるのを見ると踵を返しました。その後ろに付いて家の中を進みます。玄関から見ていた時の印象と変わらず、小綺麗に片付いていて無駄なものも少ないです。カカシとは大違いですね。(一人暮らしだから散らかし癖が付いてしまったとか言い訳してました) 階段を上がって、廊下の突き当たりの部屋。ここがサスケさんのお部屋だそうです。さっぱりとしていて、サスケさんの印象のままのお部屋でした。

「お前はここで待ってろ。心配ないとは思うが、あんまり変なことはするなよ」
「カゲ」

コクリと頷く。サスケさんは寝袋がどうのと呟きながら、また部屋から出て行きました。
残された私は、することも無いので部屋をキョロキョロ見回して待つことにしました。ベッドと、本棚と、小さな箪笥と、テレビと、一人掛けのソファーと、それに合わせたガラステーブル。軽く見た感じではそれくらいしか物がありません。尻尾の炎に気をつけながら部屋を移動しベランダの窓に近付くと、バサバサと羽ばたく音がして、ベランダの手摺りに止まりました。窓の鍵を開けてベランダに出てみる。

「ピジョッ、ピジョピジョッ?(お前誰だ?)」
「カ、カゲ…(は、はじめまして…)」

現れたのはピジョットさん。とても大きいので少しびっくりしました。サスケさんと同じくらいの大きさです。

「カゲ、カァゲカ カゲカゲ、カゲカァゲ(今日から、サスケさんのポケモンになりました、ヒトカゲです)」
「ピジョォ…、ピジョ、ピジョジョ、ピジョットォ!(ふぅん…、オレは、イタチさんのピジョットだ!)」

イタチさんの……。とても強そうでかっこいいポケモンさんです。彼を見ただけでイタチさんが優れたトレーナーだと分かります。私も、サスケさんと一緒に成長して強くなって……。なんだか恥ずかしい。

「…クゥ…(うぅ…)」
「…ピジョピジョ?(…何してんだ?)」

一人で照れて炎を暴れさせていると、ピジョットさんに呆れられてしまいました。
少し話していると、カチャリとドアが開いた音がしました。振り向くとサスケさんが居て、持っているリュックの中身はさっきより多くなっているようでした。

「さっきの羽音はピジョットか……お喋りでもしてたのか?」
「カゲ(はい)」
「ピジョピジョ(ちょっとだけな)」
「そうか」

サスケさんたちには私たちの言葉は分からないはずなのに、みんな通じているようです。それが嬉しくて、ポッと小さく尻尾の炎が跳ねた。

「そうだヒトカゲ、お前の毛布はこれで良いか?」

そう言ってサスケさんが私に見せたのは、腕に引っ掛けていた毛布。私の鱗の色に似た、赤茶色の暖かそうなそれ。トコトコ近付けば手渡してくれました。ふわふわで、とても暖かい。

「気に入ったか?」
「カゲッ」

もふっと顔を埋めて、毛布の感触を楽しむ。お日様のにおいもします。

「尻尾の火、燃え移らないようにもできるか?」
「カゲ、カァゲカゲ(はい、大丈夫です)」

ポニータやギャロップもするように、調整すれば熱くないし燃え移りもしない。頷いて返事をすればふと笑んで、頭を撫でてくれました。嬉しくて思わず「クゥ」と零してしまう。

「けど、俺のリュックにはこれ以上入らねえんだ」
「カゲ?(え?)」
「だから……」

もしかして、持って行けないんですか?
キュウ、と哀しくなってサスケさんを見上げた。するとドアをコンコンとノックする音がして、サスケさんと同時にそっちを見た。

「サスケ。あったわよ、丁度良さそうなのが」
「……ありがと」

ドアから顔を覗かせたのはサスケさんのお母さん。そしてサスケさんに手渡したのは、小さめのリュックサック。あれ? サスケさんはもうリュックを持ってるのに……。お母さんが去るまで待って、サスケさんはこっちに向き直りました。

「で、これがお前のリュック」
「カ、カゲカゲ…?(え、私の…?)」
「この毛布入れて、自分で持て。今日から両方お前のもんだからな」

はわ、どうしよう…! すごく嬉しいです! 毛布もリュックも、私にくれるんですか…!
背負えるか試してみろと言われ、毛布を畳んで詰めて肩紐に腕を通してみる。短い腕だから少し難しいけど、サスケさんに肩紐を伸ばしてもらったらちょっと簡単になったので、大丈夫そうです。黒と赤のカッコ良いリュックを背負い、肩紐を掴んで背中にあるリュックを肩越しに何度も見る。

「そんなに嬉しいか?」
「! カ、カゲ……」

サスケさんに言われて、はっとする。はしゃいでしまっていたようで恥ずかしいです…。
両手で顔を押さえて俯くけど、フッと笑う声がしたからちらりとサスケさんを見上げてみた。するととっても優しい顔で微笑んでこちらを見ていたので、ボンッと尾っぽの炎が爆発した。自分でその音にビックリして、うろたえてキョロキョロする。はぅぅ…。

「カ、カゲぇ…」
「嬉しかったなら良いんだがな」

頭を撫でて、苦笑するサスケさん。私の派手な照れ方で少し驚かせてしまったようです。はう、なんだか申し訳ないです…。






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