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諦める


タマムシシティに着いた。道中にトレーナーとのバトルもしたので、一先ずポケモンセンターへと立ち寄る。するとそこに、何故だかカカシが居た。

「よーぉ、やっと来たか」
「……なんか用か」
「いつの間にそんな団体様になったのよお前」

待っていたらしく、俺を見るなり椅子から立ち上がった。香燐、水月、重吾の3人は、あの有名な、とか、なんで知り合い、とか話している。それに「近所に住んでる」とだけ言って、カカシに向き直る。

「おーヒトカゲ、ちょっと逞しくなったんじゃないの」
「……カゲ」
「あ、ヒドイ。すっかりサスケに懐いちゃってまぁ……」

ぷいとそっぽを向いたヒトカゲにショックを受けてる所悪いが、早い所用件を済ませてしまいたい。香燐はデパートに行きたいと言っていたし、水月はゲームセンターへ行きたがっていたし、俺はジムに行きたい。

「イタチにそろそろこの辺だって聞いてねー。ちょっと渡したいものがあって」
「……?」
「これ」

小さな鞄の中からカカシが取り出したのは、透明な黄色い石。受け取ってよく見ると、中に稲妻のようなヒビが入っている。傾けるとそこが光って、本当に電気が走っているように見える。

「これは……?」
「雷の石。イーブイを持ってるって聞いてね」
「……」
「これを使ってやると良い」

確かイーブイは、この雷の石のような『進化石』を使ってやると、石によって違う姿に進化するはずだ。炎の石ならブースター、水の石ならシャワーズ、そして雷の石なら、サンダースに進化する。

「このあたりはでんきタイプのポケモンが少ない。トキワの森でピカチュウを捕まえてないなら、良い戦力になると思うんだけど」

「サスケにでんきタイプのポケモン持たれちゃ、ボクますます勝てなくなるなぁ」
「へっ、テメーは一生サスケにゃ勝てねーよ(でんきタイプのポケモン……サスケに似合うじゃんかよ!)」
「なんだとぉ……香燐、ボクは君よりは強いんだから、今からメタメタにしてあげたって良いんだけど」
「ああ! やんのかコラ! 表出ろ!」
「望むところだね」
「水月、香燐、喧嘩は良くない」

「…………」
「……大変そうね、お前」
「……はぁ……」

ギャーギャーと騒ぎながら外へ出ていった二人と、止めるためにそれを追った重吾。カカシに憐れまれる始末で、溜息だって出てしまう。ヒトカゲもびくびくとして落ち着かないので、頭を少し撫でてやる。
センター内が静かになり、外が騒がしくなる。俺はイーブイのボールをベルトから外して、中から出てくるように言った。ボールが開いてイーブイが出て来る。

「ブイー」
「おっ、これまたかわいいじゃないの」
「ブ、……ブイブーイ…」
「怖がらなくても、怪しい奴じゃない。……たぶんな」
「ぇえー……」

イーブイにまで怯えられ、カカシはちょっぴりマジ凹みしたようだった。カカシから逃げて寄ってきたイーブイにしゃがんで、雷の石を見せる。するとイーブイは興味津々で、鼻先を近付けてにおいを嗅いでいる。

「進化したいか、お前」
「……ブイ?」
「これを使えばお前は、でんきタイプに進化して、もっと色んな技を覚えられるようになる」
「……」
「強くなれるんだ。分かるか?」
「……ブイッ!」
「!」

返事をしたかと思うと、イーブイは俺の手から石を咥え取ってしまった。それに驚いて間も無く、イーブイの体に変化が現れる。進化の光だ。

「……すげぇ…」
「…カゲカ…」

まばゆいばかりの光に包まれて、イーブイの形が少しずつ変わっていく。こうして間近で進化を見るのは初めてだ。ドキドキと胸が高鳴る。
やがて光がおさまり始め、姿が見えるようになってくる。倍以上に大きくなったようで、もう抱き上げるのも無理そうだ。ヒトカゲよりも大きいんじゃないだろうか。

「……ダースッ」
「! どあっ、」
「カァゲカ!」

進化が終わり、かと思うといきなり飛び付かれた。黄色い毛色で毛は硬く、やや尖っているから当たると地味に痛い。それを知ってか知らずか、イーブイ……いや、サンダースは、俺の顔に擦り寄って来る。

「こらやめろ、いて、」
「がふ、ぐるぐる」
「重い、重いから退け、分かったから」

進化が余程嬉しかったのか、いつにも増してじゃれ方が酷い。悪い気はしないが、重くて苦しいのと、毛が当たって痛いのとで、とてもじゃないが喜べない。

「はいはい落ち着いてねー」
「ダッ?」

カカシが興奮したサンダースを抱き上げて止め、その隙に起き上がる。ヒトカゲが心配そうに寄ってきたから、苦笑しながら頭を撫でる。サンダースののしかかる、結構強力だな…。(今のはじゃれてただけだから、技ではないが)

「サンダース」
「きゅう……」

落ち着きを取り戻し、反省した様子でうなだれる。その頭を撫でてやりながら、口を開く。

「そんなに嬉しかったか」
「……クン」
「……そうか。ならいい」

口角を上げて、わしわしと撫でる。そうすると嬉しそうに鳴いたので、怒っていないと分かったようだ。

「そういえば」
「?」
「ヒトカゲは進化させないの? そろそろ進化しても良い頃だと思うんだけど」

サンダースをボールに戻して、立ち上がる。そうしてヒトカゲを見下ろすと、少し俯いていた。

「カゲ…」
「……一度は進化しかけたんだ。だが、何故か進化したがらなくてな……」
「進化したがらない……?」
「……ああ」

暗闇の洞窟で野生のポケモンを倒した時に、進化しかけた。しかしヒトカゲは、それを自分で無理矢理止めたようだった。俺としては進化して強くなって欲しいのだが、ヒトカゲが嫌がるのでは仕方ないと、今のところは無理にさせないでいる。

「うーん。どうして嫌なんだ? 進化した方が強くなれるし、サスケの役に立てるんだぞ」
「……カゲ…」
「何度も進化を止めるのは、しんどいだろう」
「カゲカゲ、…カァゲ…」

首を横に振り、やはりそれでも嫌だと言っているようだ。俺もカカシも理由を考えて、ううむと唸る。すると重吾が二人を止めるのを諦めたのか、戻って来た。

「サスケ、あの二人を止めてくれないか」
「……放っておけ。それより重吾、ヒトカゲがどうして進化を嫌がるのか分からないか?」
「ああ、それか。オレも気になっていた」

そう言うなり、重吾は大きな体を縮めてヒトカゲと目線を合わせた。何をするのかと、カカシが聞いてきたから、普通に会話だよ、と答える。カカシは驚いたような顔をしたが、ニビジムの重吾だと言えば、どうやら知っていたようで、なるほどと頷いた。重吾はヒトカゲの小さな前足を摘んで、そっと優しく尋ねる。

「何故進化したくないんだ? サスケもオレも、理由が分からなくて心配だ」
「…カゲ…カゲカァゲカ、カゲカゲ…」
「……なに、サスケに知られたくない?」
「、……」
「(あー、なるほどネ。大体分かったよ)」
「カゲカゲ、……カゲェ…カゲカァゲ」
「……そうか、なるほど」

重吾と、あと何故かカカシまで、理由が分かったのか、ふむふむと頷いている。立ち上がって屈み、小さなヒトカゲの頭を撫でる。その顔は全てが分かって、その上でかわいいなと、思っている。全く見当もついていない俺は、ムッとして、おそらく嫉妬。

「(なんだよ、俺には言いたくないって……)」
「悪いなサスケ、教えてやれないよ。ヒトカゲの頼みだからな」
「……フン」
「心配しなくても、サスケにとって悪い理由じゃない」
「……」

ヒトカゲの尻尾の炎がボッボッと暴れているから、たぶん照れているんだろう。が、俺には全く理由が分からないから、なんだか腹が立つ。
ムスッとして腕を組んで立っていると、カカシがそろりと近付いて、耳打ちしてくる。

「……進化したらかわいくなくなるのを、知ってるんだよヒトカゲは」
「……?」
「だから……アダーッ!」
「っ!」

俺が理解できないでいると、ヒトカゲが気付いてカカシの足を引っ掻いた。耳元で悲鳴を上げられたから、キンキンと響いて痛い。耳を塞いで開けて、耳鳴りを消そうとする。

「カゲカゲカゲェ!」
「博士、サスケには言わないでくれと言っていたのに……」
「わ、わかったわかった! 悪かったよ、お詫びにこれやるから」

そう言ってカカシが鞄から取り出したのは、楕円形のつるりとした石。それをヒトカゲに渡して、石の説明をする。

「それは、かわらずの石。持ってると進化しなくなる不思議な石だ」
「カゲ……」
「それを持ってれば、進化しそうになるのを無理矢理止める必要もなくなるってワケ」
「勝手なことすんなよ……」
「いーじゃないの。どうせ嫌がるから無理に進化はさせないでしょ」
「……」

図星なので言い返せない。受け取った石を眺めるヒトカゲの頭に、手を軽く乗せる。こちらを見上げたヒトカゲは、取り上げられるのかと、不安そうにしている。

「……」
「……持ってても良い」
「! カゲ……」
「無くすなよ」

ぽんぽんと、軽く叩いて、俺の負けだと小さく呟く。まあ、メスなのだし、あまりいかつい姿になりたくないのは仕方ないのかもしれない。俺はヒトカゲに甘いな。嬉しそうに鳴いた後、ヒトカゲは俺の足に擦り寄った。





オマケ

「……お前ら、俺を怒らせたいのか…?」
「!」
「!(…今の、本気の殺意だったじゃないか…)」
「(怒るサスケも…かっこいい…)」

バトルで街に被害を出し始めていたのでようやく止めに行きました。



2010サスケ誕生日企画 恋する動詞/諦める
(20100820)


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