×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
姓名判断


「……なんか辛気クセー町だな」
「全体に空気がどんよりしてない?」
「そうか? 優しい空気だと思うが……」
「……」
「カゲ……」

いつの間にかこんなに大勢になって、ぞろぞろと歩いている。あまり大勢でうるさくするのは好きじゃないが、付いて来られては仕方ない。

最初は、雨でへばったヒトカゲを急いでポケモンセンターへ連れていくために、自転車を(半ば無理矢理)借りたことで香燐と知り合い、その後何故か付いて来られることになった。
次に、ニビジムのジムリーダーでバトルになると人格の変わる重吾に、ヒトカゲで岩タイプに勝ったことから自分を抑えてもらえると思われ、一緒に行くことになった。(料理が上手いので有り難い)
そして最後にハナダジムのジムリーダーの水月に、ヒトカゲで水タイプに勝ったことで気に入られて、付いて来られることになった。
重吾はともかく、他の二人は付いて来る理由がいまいち分からない。水月には後から「新しい水ポケモンも欲しかった所だし、君と居れば色んな場所に行けそうな気がするからね」などと、一人で行けよと言いそうになる理由を付け足されたが、香燐は未だによく分からない。自転車は返したし、他に特に理由も見当たらないが。

「……このでかい塔はなんだ?」
「んー? えーと、ガイドブックによれば……ポケモンタワーって言って、死んだポケモンたちを供養する場所みたいだね」
「要するにポケモンの墓か。道理で辛気クセー訳だぜ」
「それで優しい空気なのか……。町全体がポケモンを思っているんだな」
「そうかァ?」

重吾はポケモンの言葉を理解できるらしい。二重人格な自分を怖れて敬遠する人間とは違い、ポケモンたちはあまり差別をしないらしい。だからヒトよりポケモンの方が好きな傾向がある。

町の人間の話を聞く限り、最近ポケモンタワーに幽霊が出るらしい。ゴーストタイプのポケモンも居そうだから行ってみたいが、怖がっているのが若干一匹居るのでまた今度にしようと思う。幽霊の正体を見破るにはシルフスコープというものが必要らしいので、どうせ後回しだしな。(本当にビビりだな、ヒトカゲ)(可愛いが)

「おや、これはかわいらしいヒトカゲですな」
「?」
「カ、カゲ……」
「おっと失礼、急に話し掛けてすみませんなぁ」

老人の声に振り向くと、いかにもジェントルマンな老紳士がヒトカゲを見ていた。人見知りできょどるヒトカゲを見て、驚かせてしまったと謝っている。

「私は姓名判断師、ポケモンのニックネームを付ける仕事をしております」
「姓名判断……」

そういえば、ヒトカゲに名前を付けてやろうと思っていたのだった。一応色々と考えてみたものの、いまいちピンと来ず、付けず仕舞いのままだった。

「どうですかな? 素敵なニックネームを付けて差し上げますぞ」
「別に『ヒトカゲ』のままでよくねーか? 誰かと被ってる訳でもねーし」
「サスケの好きにしたら?」
「付けてやると良いと思う」
「カァゲカ……」

好き勝手に言う三人と、付けて欲しそうにこちらを見るヒトカゲ。しかし少し微妙な表情をしているのは、赤の他人の姓名判断師にではなく俺に付けて欲しかったから、だろうか。少し迷って、口を開く。

「……そうだな、頼む」
「左様ですか! では早速……」

ヒトカゲをじっと見て、顎に手を当てて考えている様子の老紳士。真っ直ぐに見るものだからヒトカゲもたじたじとして、困ったように時々こちらを窺う。

「……ふむ。『ヒーちゃん』はどうですかな?」
「ヒ、……。……他には無いのか?」
「ふーむ。では、『カゲカゲ』などは?」
「……却下だ」
「じゃあ『クゥちゃん』では」
「却下」
「むむむ……」

ペットのあだ名か!

「ヨウコ」
「(急に人名っぽくなったな)却下」
「サチコ」
「却下」
「ユキコ」
「却下」
「ミナコ」
「却下(何故最後に必ず『コ』を付ける)」
「えぇい、こだわる方ですなあ! こうなったら連続で行きますぞ!」
「ああ」
「サクラ ヒナタ テマリ テンテン イノ クレナイ シズネ ツナデ クシナ ミコト ユウガオ コハル カリン」
「ん?(今ウチの名前無かったか…?)」
「コナン リン ユギト カルイ サムイ チヨ シマ」
「(どこかで聞いたような名前ばかりだな……)」
「ユリカ ナエ マツリ サリ スミレ タマキ シズク アオイ カゲー! ど、どうですかな、何か気に入ったものはありましたかな…!」

 一息で一気にまくし立てたため、ゼイゼイと荒く息をしながら尋ねた。少し考えて、ピンと来たように感じたあれにしようと思う。

「……カゲー……」
「む?」
「『カゲー』にする」
「そうですか、私もそれがピッタリだと思いますぞ!」
「(あんなにたくさん適当に上げておいてよく言うよ……)」

水月が呆れた顔をしていたが何も言わないでおく。
ヒトカゲを見下ろすとこちらを見上げていた。軽く頭を撫でて、小さく笑い掛ける。

「これからお前の名前は『カゲー』だ」
「カゲ…!」
「あまり呼ばないかもしれないけどな……」

(だってなんだか恥ずかしいだろう?)

あまり呼ばないと言われてヒトカゲは少し残念そうにしていたが、それでも名前を貰えたことが嬉しいらしく、頻りに「カゲカゲ」と呟いて自分の名前を復唱しているようだった。
姓名判断師は満足そうに去って行き、俺達は次の目的地であるタマムシシティへ再び向かうべく、一先ずポケモンセンターへ行くのだった。



【姓名判断】
(20090629)
ようやく名前付けたよ!


 []      []
戻る

[感想はこちら]