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トキワの森


トキワの森を、難しい顔をしたサスケさんと歩く。トキワジムはジムリーダーが不在、らしいので通り過ぎました。なんでもあのイタチさんがそのジムリーダーだそうなのです。そんけーです!
そういう訳で、最初に挑戦するのはニビジムです。ニビジムは岩タイプのポケモンを得意とするジムだそうで、今の手持ちポケモン(私とイーブイくん)では厳しい。なので対策を色々考えているらしいのです。

「……取り敢えず特訓でもするか」
「カゲ」

ぽつりと呟いたサスケさんに返事をすると、ふと驚いたような顔をして、それから頭を撫でてくれた。嬉しくて照れて、シッポの炎がぽっと跳ねた。
すると、ちょうどタイミング良くビードルが現れました。彼らは進化するとスピアーになるので、ちょっと苦手です。(ハチ怖い!) リュックサックの肩紐を掴んでたじたじとしていると、サスケさんが「ヒトカゲ」と呼びました。振り仰いで見ると、こちらを見下ろして「行けるか?」と尋ねられた。そう言われては「行ける」と答えるしかなく、小さく深呼吸して、返事をした。

「カゲッ」
「よし」
「ビーッ、ビーダァールッ」
「っ、」

気合い満々の野生のビードルの雄叫びに、またたじろいでしまう。
だ、大丈夫、相手は自分より小さいし、相性でもこっちが有利。だから怖がらなくても大丈夫、だ!
そう自分に言い聞かせながら、一歩前へ進む。あまり格好悪い所は見せたくないから、余計に少し緊張する。

「ヒトカゲ、ひのこだ」
「カゲー!」

口から火の粉を吐き出し、ビードルに向けて飛ばす。動きの素早くないビードルはそのまま火の粉を被り、気絶してしまった。なんだか呆気なく倒せてしまい、気が抜けてほっとした。

「びー……」
「やるじゃねえか。この調子でレベル上げていくぞ」
「カゲッ」




その後も野生のポケモンを見付けては倒し、バトルに慣れていない私も少しずつ自信が持てて来た。イーブイくんはバトルを嫌がってサスケさんに甘えてばかりでしたが、キャタピーを一度だけ倒しました。彼の体当たりはなかなか強力なようです。
夜になってお腹が空くと、ポケモンフードと森の木の実を食べさせてくれた。サスケさんは持って来た缶詰を食べている。

「うまいか?」
「カゲ、カゲカッ!(はい、おいしいです!)」
「ブイー…(あんまり…)」

甘酸っぱくておいしい木の実なのに、イーブイくんはあまり好きじゃないみたいです。彼はもっと辛いのが好きだと言う。好き嫌いはそれぞれだけど、辛いのが好きなんて考えられない。私は辛いのが一番苦手だ。
そうして食事を終えると、イーブイくんはボールに戻り、サスケさんは寝袋を広げ始めた。私はその近くに座って、リュックから毛布を取り出す。ふかふかの感触を楽しんで毛布に顔を埋めたり頬擦りしたりする。獣避けの焚火から充分離れた場所に寝転び、広げた毛布を被る。なんだか嬉しくて小さくはしゃいでいると、サスケさんが言った。

「そんなに嬉しいか?」
「! カ、カゲェ…(は、はい…)」

気付かれていたことが恥ずかしくなり、毛布に隠れるようにする。毛布から出した尻尾の先で、炎が不規則に大小しているのを感じる。寝袋に入って眠そうに欠伸したサスケさんをちらりと見て、釣られて欠伸をする。今日はたくさんバトルして疲れちゃったな。毛布の中で丸まって、燃え移らないよう尻尾の火を調節する。うとうとして、眠りに就く間際に、優しく頭を撫でられた気がした。

「……おやすみ」







朝、ブブブブブという嫌な音に跳び起きた。こ、この音は…!
一気に覚醒した体。開いたばかりで霞む目を擦りながら、周りを見回す。すると大きなスピアーが10から20くらい、囲むようにこちらを睨んでいた。少し遅れて跳ね起きたサスケさんも事態を理解したのか、苦い顔をしている。するとスピアーの群れの奥の方に、昨日倒したビードルが居るのを見付けた。自分がやられたからって強い味方に仕返ししてもらうなんて卑怯だなあ……!

「……逃げるぞ。持てるだけ荷物持て」
「カ、カゲ……」

被っていた毛布を適当に纏め、リュックを引っ掴む。サスケさんも寝袋は拾い切れないと見てか放置し、他の荷物を手に取っている。じりじりと隙を窺い合い、サスケさんはスピアーと睨み合っている。私はたじたじとしているだけで、どうすれば良いのか分からずにいる。ハチ、怖いよぅ…!

「ヒトカゲ!」
「!」
「あそこにひのこだ!」
「カ、カゲェー!」

サスケさんに言われて、咄嗟に火の粉を放つ。すると一匹のスピアーに命中し、通れるくらいの隙間ができた。わあ、すごい、適当にしただけなのに!

「行くぞ!」
「カ、カゲカッ」

空いた隙を走り抜けて、スピアーたちを撒くべく走る。



走って走って走って、だけどしつこく追い掛けてくるスピアーたち。走り疲れてきて、速度も落ち始めて来た。

「カ、カゲ……」
「大丈夫か、ヒトカゲ」

ぜいぜいと荒れた息遣いで話し掛けたサスケさん。それに一瞬気を取られた瞬間、木の根に躓いて転んでしまった。い、いたい…。

「! ヒトカゲ、」

気付いてすぐに引き返してくれたサスケさんにときめきながら、転んでしまったことを情けなく恥ずかしく思う。抱えていた毛布が汚れてしまった。私が立ち上がると、それをサスケさんが私のリュックに急いで詰め、背負わせてくれた。
するとまた嫌な羽音が近付いてきて、振り返ってみるとスピアーが一匹こちらに迫って来ていた。折角撒けそうだったのに私の所為で見付かった、というショックと恐怖とで、咄嗟に動けない。

「あぶねえ!」
「!」

スピアーがミサイルバリを放った。動けない私をそれから庇おうと、サスケさんが咄嗟に覆いかぶさった。

「う、ぐあっ…!」
「カ、カァゲカ!(サ、サスケさん!)」

スピアーの強力なミサイルバリを、サスケさんは背中に受けた。痛そうに呻くサスケさん。わ、私の所為で、サスケさんが…!

「だ、…大丈夫か、ヒトカゲ……」
「カゲ、カゲカゲ!(それより、サスケさんが!)」
「平気だ、これくらい……、っ」

ショックで泣きそうだ。サスケさんの苦しそうな声。
するとサスケさんの後ろのスピアーが、腕の針を振り上げているのが見えた。みだれづきをするつもりだ。
サスケさんの腕から飛び出して、スピアーに向かって爪を振り上げた。必死だったから、いつもより力が篭ったような気がした。

「カゲーッ!」
「……!」
「ビッ!?」

油断していたらしいスピアーは、まともに喰らってしまい、かなりのダメージを受けたようだった。スピアーが慌てて逃げ帰る後ろ姿を見ると、気が抜けて、へなへなぺたんと座り込んでしまった。こ、こわかったぁ……。
危険を意味するフェロモンを巻きながら逃げたので、他のスピアーたちも襲ってこないだろう。ほうっと溜息を吐いていると、サスケさんがふらふらと傍に来て声を掛けた。

「ヒトカゲ、お前今の……」
「?」
「メタルクローじゃないのか……!?」
「カゲ?」

め、めたるくろー? 私はただ必死でスピアーをひっかいただけで、そんな大層な名前の技ではないと思うのですが。

「そうか、メタルクローが使えるようになったのか……。やるじゃないかヒトカゲ……!」
「カ、カゲカゲ…(そ、そうかな…)」
「これなら岩タイプにも、……イテテ……」
「カゲッ、カゲカゲ?(サスケさんっ、大丈夫ですか?)」

痛がって近くに座ったサスケさんを心配して、様子を窺う。思ったよりは傷は浅いみたいだけど、早く病院に行かないと……! するとサスケさんはリュックから傷薬を取り出し、私に渡した。背中に使って欲しいとのこと。

「カゲカ(分かりました)」
「サンキュ……。ともかくこれで、岩タイプに対抗できそうだな」
「カ、カゲ…(で、でも…)」
「自信がないならいくらでも特訓に付き合う。な」
「……カゲッ(はいっ)」

自信は無いものの頷きながら返事をすると、サスケさんは苦笑した。

「…でもとりあえず病院だな…」
「カゲ…」

傷薬を返すと、頭を撫でてくれた。庇わせてしまって怪我をさせてしまったのに、サスケさんは優しいなぁ。申し訳なくて嬉しくて胸がきゅんとして、「クゥ…」と声が漏れた。

サスケさんに迷惑をかけないためにも、強くならなくっちゃ!




【トキワの森】
(日記再録 投稿日 2009.06.10 Wed)


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