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巡り合う


「あ、」
「…ああ、」

帰りの駅で、今朝定期券を無くしていた女子と会った。多分今までにも何度か同じ時間同じ車両で帰ったことはあったのだろうが、別段気に留めたことは無かった。が、今朝に知り合ったので、無視する訳にもいかない。それに無視したくない、気持ちもどこか有った。少し頬に熱を感じながら、耳に付けていたイヤホンを外した。

「偶然、ですね」
「…ああ、そうだな」
「朝は迷惑かけて、ごめんなさい」
「いや…迷惑だなんて思ってない」
「そう、ですか。ありがとうございます」

素っ気なくなりすぎないように、言葉を選びながら話す。かなり前にナルトに「なんでお前はそうぶっきらぼうなんだってばよ! なんでモテんのか分かんねえ!」と言われたのを頭の片隅に思い出したからだ。
電車が来て、ゆっくりと停車する。開いたドアから中に入って、座席はあまり空いていないからドア付近に立つ。続いて乗り込んだ彼女も俺に悪いと思ったのか座らず、同じように立ったまま。近くの空いている座席を指して「座らないのか?」と聞いたが、首を横に振った。

「いえ、大丈夫です」
「…そうか」

ドアが閉まり、電車が動き出す。がくんと体が置いて行かれそうになるのをこらえ、足の位置を調節するように少し足踏み。会話が途切れて、やや気まずい空気になる。何か、話した方が良いのだろうか。それともだんまりの方が良いのだろうか。そう悩んでいると、彼女から話し掛けて来た。

「あの、」
「なんだ?」
「…あの、…いつも同じ電車に乗ってますよね、朝」
「…ああ」
「毎日見る人だから、今日、声をかけられて、びっくりしちゃいました…」
「…」
「あの、もしかして、…あ、ええと……」
「…俺も、毎日見るなと、思ってた」
「! あ、やっぱりそうですよね、」

もしかして同じように気付いていたのでは、と言い兼ねたようだったから、自ら答えた。そうすると気恥ずかしそうにはにかんで、照れているのかやや早口。

「すみません、自分だけが知ってたんだったらどうしようかと思っちゃいました」
「…いや」
「よかった、なんだか嬉しいです」
「…(嬉しい、?)」
「あ、ええと、…すみません、舞い上がっちゃって……」
「あ、いや、別に構わない」

少し黙っていたら不安そうに謝ったので、慌てて取り繕う。しかしまだ彼女の発言が引っ掛かったままで、もやもやとその言葉が頭を廻る。

「あ、そういえば、名前も名乗って無かったですね」
「そう、だな」
「あ、でも…名乗られてもって感じですよね、すみません…」
「……」

距離を詰めたいのか、そうでないのか、意図を掴みきれない。おそらく彼女も、縮めて良いのかはかりかねているんだろう。俺と同じく。
変に知り合ってしまって、毎朝同じ電車に乗るのに、顔を合わせづらくなってしまったりしないだろうか。今朝はそんなことまで深く考えずに声を掛けてしまったし、今またこうして帰りにまで会ってしまうとは思っていなかったから。また明日の朝に会うのだったら、小さく会釈するだけで終わったのかもしれない。それもそれで、微妙だが。俺はどうしたいんだ。

しばらく会話が切れたまま、お互いに無言で立ち尽くしている。俺も彼女もどうしようと悩んでいることにお互い気付いているのに、何も進展しないまま二駅過ぎる。
電車がまた発車して、それを機に重かった口を開く。

「…なあ、降りる駅も同じ、だよな」
「え、あ、はいたぶん…そうだと」
「じゃあ中学、どこだった」
「えっと、木ノ葉北です」
「…俺は木ノ葉東」
「あ、近いんですね」
「そうみたいだな。本当は北の方が近いんだが、校区の関係で東」
「へえ…じゃあ小学校は」
「…その頃は一度引っ越してたから、全然違う所だ」
「いつからこっちに?」
「中学入る時に。幼稚園卒業してすぐからだから、丁度小学時代中丸々居なかった」

地元の話になると急に会話が続く。共通の話題だから、話しやすいんだろう。

「じゃあ幼稚園はどこでしたか? 私はずっと木ノ葉幼稚園、小学校、北中って、木ノ葉ばっかりです」
「俺も幼稚園は木ノ葉だ」
「あれっ、そうなんですか。ちなみに今は…」
「私立の暁学園の高一」
「えっ!」
「?」
「あ、すみません…年上だと思ってました…。私は公立の暁高校の一年です」

また駅に着いて、ドアが開く。人が出入りして、またドアが閉まる。

「じゃあ、知ってるはずですよね、幼稚園同じだったんですし」
「…そうだな」
「卒園してすぐ引っ越した子って言ったら……うーんと…」
「……」
「あ、待って下さいね、教えないで、今思い出すから……」
「ああ…」

俺も同じように彼女を思い出そうと記憶を探る。だがどの同級生も顔が曖昧で、全くはっきり思い出せない。電車が走り出す。

「あっ! えーと、…えー……さ、…サスケくん、?」
「! そうだ」
「え、あ、当たった? 覚えてた名前言っただけ…なんだけど」

見事に言い当てられた。しかし俺はまだ思い出せないでいる。彼女の顔をじっとみて、記憶の欠片を掻き集めてはみるものの。
言い当てた彼女はしかし、懐かしさにはしゃぐということもしない。不思議に思いながらまだ思い出そうと考える。

「あーえっと、あはは…覚えてないかなぁ」
「…」
「サスケくんて昔は結構いたずらっ子だったのに、今は落ち着いてるね」
「…そうだったか?」
「そうだよ…だって、」

いつの間にか敬語は消え失せ、幾分か親しげに話し掛けられる。彼女からのヒントととも取れる言葉に更に首を捻るがいまいちピンと来ない。言葉の続きを待つ。

「…よくサスケくんにいじめられたもん」
「……! あ、…あー……なまえ、か? もしかして…」
「…当たり」

思い、出した。
一度思い出すと次々と、芋づる式に記憶が蘇る。そうだ彼女は昔、俺がよくちょっかいを出していた、女の子。別に嫌いだったのではなく、気になるけどどう構えば良いのか分からなかった、という。つまり、あれだ。

「(まさか、あの子かよ…)」
「いじめるって言うと違うのかな。何て言うのか、…」
「…悪かったな、あの時は」
「ううん、本気で嫌なことされたことは無かったから」

そっか、サスケくんかぁ、と何やら感慨にふけりながら呟く彼女。耳が熱いからおそらく俺は赤面している。だから彼女から顔を逸らして明後日を向いている。
電車が駅に着いて、そこが目的地だったので二人して降りる。定期券はちゃんと無くさず取り出して、改札を抜ける。駅を出て、少し歩いて、立ち止まる。

「…びっくりしちゃった」
「…」
「私たち、顔見知りだったんだね」
「…ああ」
「なんか、すごいね。あ、敬語は…もういいかな?」
「ああ、使うのも変だしな」
「ありがとう。今日はほんとに、色々あったね」
「…だな」

踏切がカンカンと鳴り、バーが下りる。なまえは踏切の向こう側、俺はこちら側に帰る。電車が行き過ぎるのを待って、なまえがこちらを向く。少しだけ赤い、ような。

「あのね、」
「…なんだ」
「……えっと、…やっぱりいいや」
「?」
「また明日」
「あ、ああ…」

バイバイ、と手を振って踏切を渡って行く。何か言い掛けたが問い質す間もなく行ってしまった。また明日、という言葉に若干動揺していたからかもしれない。明日も、同じ電車に乗るんだ。

初恋の人だった、そして今もまた惚れてしまったようであるし、俺は何か運命のようなものを感じていた。勘違いだと言われればそれまでだが。

数ヶ月後、彼女に同じ告白をされるが、今はまだ知らない。




巡り合う
(20100828)


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