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待つ


「……ったく…」

今しがた届いたメールを見て、呆れて溜息する。待ち合わせの時間になってもなかなか現れないからどうしたのかと思えば、単なる寝坊。今の今まで寝ていたらしい。今頃大慌てで準備に走り回っているに違いない。

駅前だった待ち合わせ場所を、近くの本屋に変更するメールを送る。さすがにこの暑いのに何もせずにただ立って待つのは酷と言うもの。日陰には居るが、直射日光よりはましというだけで、汗は掻きまくっている。

携帯電話を閉じて後ろのポケットに入れる。歩き出して、癖でズボンのポケットに手を突っ込んでいたが、暑いのに気が付いて引っこ抜く。手汗を服で拭きつつ、本屋へと向かった。





本屋の自動ドアを抜けると冷気が迎え、瞬く間に体にまとわりついた熱気を引き剥がした。店員の「いらっしゃいませ」という声を聞きながら奥へと向かう。少し早起きをしたから欠伸をしつつ、雑誌が並べられた棚の前で止まる。別段興味はないがバイク雑誌を手に取り、パラパラと適当にめくる。中型免許取りてえな…。そう思って今度は別の棚へ移動する。

資格・免許のコーナーを見付けて、その棚に中型免許の教材が無いか探す。夏休みだから時間のできた学生が求めるのか、原付免許の本の方が多かったが、中型免許の教材もあった。どうせ二十歳にならなければ取得はできないが、知識は持ってても悪くないだろう。手に取って中を見て、原付とは違ってバイクの起こし方などが載っているので、それも試験として出るのだなぁと思った。確かに倒れたバイク起こせないで、倒してしまった時や事故の時どうする、とは思うが。

少しの間読んで、また今度買おう、と決めて本を棚に戻す。適当に店内を歩いて、文庫本のコーナーを見付けて立ち止まる。フェアをしているらしく、目立つように並べられた本を一つ手に取る。最近よくドラマ化される著者の本だ。数ページ軽く読んでみて、確かに読みやすく飽きさせない文章を書く著者だと感じる。文体もあまり固くなく、読者にフレンドリーな印象だ。なまえが好きそうだな。まあ俺はもっと固い文体の方が好みだが。また本を戻して、店内を歩く。


ふと本来の目的を思い出して、入口を見やる。遅いなアイツ。腕時計を見て、ここに来てから20分余りが経っているのを確認する。準備の上にここまでの道のりがあるから、仕方ないのだろうが。嘆息して、一度外へ出てみる。
自動ドアが開いた瞬間、外の熱気が襲い来る。気温差が半端ではない。太陽に照らされながら少し周りを見回して、なまえの姿を探す。携帯電話もポケットから取り出して見てみたが、特に連絡も無し。またポケットに仕舞いつつ踵を返し、本屋に入る。やはり気温差が半端ではない。

もう見て回る所も無さそうだが、ぶらぶらと適当に歩く。料理本のコーナーに来て、『彼氏に作ってあげたい愛情ごはん』なる本が目に留まる。逆にそれって男が作ってもらって嬉しいもんなのか、と思ったので中を見てみる。ああなんだ、女が「私料理できるのよ」という所を見せるための本だ。肉料理食いてえ。

それを本棚に戻した所に、名前を呼ばれる。

「ごめん、ホントにごめん!」
「…遅すぎだろ」

手を合わせて頭を下げ、余程急いだのか息を切らせて汗だくなのを、溜息を吐きながら見下ろす。待たせた罰にと軽く頭を叩き、走って乱れたらしい髪を少し指で梳く。

「昨日よく眠れなくってさ…」
「…遠足前の小学生かお前は」
「あは、似たようなものかも…」

所謂初デート、なので緊張でもしたんだろう。はにかみながらそう言うのを、密かにかわいいと思う。
なまえの視線がさっき見ていた本に向いていることに気が付いて、ああ、と声をこぼす。

「別に深い意味はねーよ。俺の食いたい料理は載ってんのかと思ってな」
「あ、なるほど…。載ってた?」
「いや。特には」
「そうなんだ…じゃあどんな料理食べたい?」
「そうだな…」

話しながら歩き出して、本来行く予定だった場所へ向かう。本屋を出て、駅へ行き、電車に乗って。デートを楽しみにしていたのはお前だけじゃねえから、安心しろよ。



待つ
(20100827)


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