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秘める


「……」

このくそ暑いのに目の前でいちゃつかないでほしい。
クーラーのついたリビングで一人寛いでいると、兄のイタチが階段を降りる足音がして、そのまま玄関へと向かった。不思議に思っていると、客人を連れてここへ来た、と言うわけだ。

「ごめんね邪魔しちゃって」
「……別にいい」

読んでいた本を、結局二人が気になって集中できないので放り出し、お茶のおかわりをと冷蔵庫へ立つ。外はかなり暑いらしく、やって来たばかりの彼女はまだうっすらと肌に汗を残していた。
イタチの一つ年下らしい彼女は、確かにイタチの好きそうな、大人しく平和そうな女性だった。もう幾度となくこうして家に訪れ、他愛ない戯れ合いをしては、俺にその様子を見せ付ける。イタチはおそらく俺にも彼女が欲しいと思わせたいのだろうが、あまり、いい方向には俺の気持ちは動いていない。
兄と客人の分のグラスも取って、テーブルに並べて置く。元々置いていた俺のと合わせて3つのグラスに、半透明に透けた茶色いお茶を注いだ。

「ありがとう」
「悪いなサスケ」
「…ついでだったからな」
「分かってるよ」
「……」

俺の照れ隠しまでを見通して、目を細める兄。ふいと顔を背けて、二人とは反対側のソファに座る。
父さんと母さんは二人で旅行に行っているから明後日まで帰って来ない。必然家に居るのは俺たち兄弟だけになるから、イタチも彼女を呼びやすい。

トイレに立ち、ついでに音楽プレーヤーを取りに行く。それでもなきゃあ集中して本も読めない。リビングから出ると途端に暑く、2階へ行って戻る頃にはじわりと汗が滲んでいた。それをプレーヤーを持った手で拭きながらリビングのドアを開けると、冷たい空気とともに見たくもない光景が目に飛び込んで来た。

「ん、……あっ、」
「……」
「もー、だからダメって言ったのに…、ほら弟くんびっくりしてる」
「はは、見られたか」
「全然反省してないでしょイタチさんっ」
「……」

見られてしまったのを怒っているようではあるが、万更悪い気もしていないらしい彼女と、こんな場所でキスなんてした兄。ふつふつと、何とも言えないもやもやした何かが、胸の内に湧き出て巡る。眉間にぐっと力がこもる。

「…アンタら、暑くないのかよ」
「クーラーが利いてるからな」
「そういう問題か」

平静を、装いながら、二人の向かいのソファに座る。プレーヤーを本の上に置いて、お茶の入ったグラスを取ってごくごくと飲み干した。その間も二人は睦まじく何かを話していて、ぐるぐるぐると、胸のもやがより濃くなって俺を苦しめる。

「さっきはごめんね弟くん、変なもの見せちゃって」
「………別に、もういい」

嘘だ全然よくない

「変なものとは何だ」
「イタチさんが悪いんですからね、少しは反省して下さい」
「分かった、悪かったからそう拗ねるな」
「…本当に反省してるんですか?」

仲良さそうに、話すなよ。余計苦しくなる。

弟くん、という呼び方が、いかにも俺をイタチの弟としか見ていないようで、嫌だ。しかしそれを指摘するのも、感付かれそうでできない。それに何より、彼女に気付かれてしまうと、彼女に罪悪感を抱かせてしまう気がして、それは避けたかった。

「そんなケダモノやめとけ」
「ケダモノなんて人聞きが悪いぞサスケ」
「そうねぇー、じゃあ弟くんに鞍替えしようかなっ」
「こらなまえ、何言ってるんだ」

べーっ、と舌を出して、ふざけた口調で言い、イタチの隣を離れて俺の傍に来た。イタチも真面目には受け取らず、苦笑しながらこちらを見ている。

「兄貴はやめて俺にするか?」
「ふふ、それも面白そうね。もし別れたら考えようかな」
「いつでも良いぜ」
「おいおい、冗談はそれくらいにしてくれ」
「ふふふっ、はーい」

そうしてまたすぐにイタチの元に戻り、幸せそうに笑う。俺が彼女と付き合ったとして、あんな風に笑わせることはできるんだろうか。この二人はこのままの方が、きっと良い。だから俺の気持ちはこの胸の中に、ひっそりと潜ませたまま。



秘める
(20100808)


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