妬む 「サ、スケ…」 「……」 道端でばったりと、有り得ないタイミングで出会う。俺の傍らにはけばけばしい化粧と髪色をした見知らぬ女が、居た。偶然その場面に出くわしたなまえは、呆然とした様子で立ち尽くしている。 「え、なに知り合い?」 「…お前、もういい。どっか行け」 「えー、ちょっとなによぅ、折角これからだったのにー」 「うるさい消えろ」 そう言うと名前も覚えてない女は憤慨して去って行った。残された俺たちは、黙ってしばらく膠着したのち、なまえから先に切り出した。 「……うわ、き…してたの」 「…否定はしない」 「……」 「…なんだ、思ったより怒らないんだな」 「………おこってるよ…でもそれより……かなしくて……」 悲しい割りには、涙も流さないじゃないか。 俯いていく。黙りこくって、じっと動かない。状況を飲み込めていない、のか。気持ちが追い付かないのか。 「…サスケは、…思ったより、悪怯れない、ね…」 「…」 「……どして、浮気……したの………うわきなんて……」 「浮気って、何をしたら浮気になるんだ。ラインはどこだ?」 「は…? なに…」 「俺のしてたことは果たして浮気だったのか?」 「……」 俺はそこら辺で目についた適当な女を何気なく眺めていて、すると向こうから話し掛けてきて、奢ると言うから飯を食い、楽しませてくれると言うから宿に行く所だった。白米を食べ飽きたからおかずに手を伸ばしただけ。多少塩辛そうではあったが、丁度良い刺激になると思った。 「その間お前は何をしてた? 俺に構わず馬の骨とふらふらふらふら、付き合いだとか言い訳して遊んでただろう」 「言い訳じゃない、本当に…」 「毎回楽しんで帰って来て土産話もするくせにか」 「それは、楽しいよ、親しい人ばかりだし、」 「例え二人きりでも? 付き合いだとしても、それは浮気じゃないって言い切れんのか」 「、……」 言葉に詰まる。言い返せないってことはつまり、思い当たる節があって、下心が全く無かった訳じゃないってことだ。結局お前も、人のことは言えないんじゃねーか。 マンネリは、してる。確かに。だから目が余所に行きがちなのはある程度は仕方ないことだろう。しかし、だからと言って、ほとんどよそ見をしていたなまえに、否が無いとは言わせない。何せ4度目であるこの行為に、一度も気付かないまま今、偶然知ったのだから。証拠になりそうなものを残したこともあった。それでも気付かなかった。今日ついに「もういい」と、半ばやけになって女の誘いに乗ってしまったのは、俺だけの所為か? 「……お前が鈍感なのは知ってたつもりだったが、ここまでとはな」 「…」 「お前の方こそ、俺に飽きて浮気してたんじゃねえのかよ」 「なにそれ、…自分のこと棚に上げて言いたい放題…!」 「俺はお前が、俺の誘い断ってまで他の野郎と遊びに行ったりするから、怒ってんだよ。俺と居る時より楽しそうにへらへらへらへら笑いやがって!」 頭に血が上っている。叫んだ後、ほんの少し冷静になって思う、勝手なのは俺もだって分かってる。 一度は言い返したなまえも、遂に涙を零した。堪えていたのか始めの二粒は大きな雫で、なまえの頬を一気に濡らした。なまえが泣き出したのを境に、再び沈黙が訪れる。 「……」 「……」 静かに涙を流すなまえの目尻に、無意識に、手を伸ばしていた。途中で気付いて、戻しかけたが、やっぱり伸ばすことにして、涙を拭いてやる。泣いてんじゃねーぞ女の武器なんて使いやがって卑怯だ、と、思っていたのに、体は素直だ。 「……なんで、」 「……」 「……浮気なんて、したの…」 「…そこは、なんで優しくするの、だろうが」 それにふるりとかぶりを振って、聞きたい、と小さく呟いた。やっぱお前の方が、勝手だ。 妬む (20100808) [←] [→] 戻る [感想はこちら] |