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ネタばらし 9/11


 遠慮する私を無理矢理引き連れて、サスケくんとパラセーリングをさせられた。速いわ高いわ揺れるわで、ギャーギャーわーわーと叫びまくったので喉が痛い。サスケくん、車酔いはするくせに、こういうのは大丈夫なんだ……。

「ある程度自分で制御できるからな」
「なるほど……」
「感想は?」
「死ぬかと思った……」
「ハハハ」

 ビーチチェア(無料貸出)に寝転んで笑う。色々遊んだので休憩らしい。
 なんだかんだでもう夕方だ。今日だけで遊びつくすなんて無理なほど、まだまだたくさん遊びが残されている。だけどもう少ししたら、帰らなきゃならないんだな。
 そう寂しく思っていると、砂浜を歩く足音が近付いてきた。程近くで立ち止まり、顔に影が掛かったので振り返る。

「楽しんでいるようだな」
「! イタチさん」
「!?」

 サスケくんが勢いよく起き上がった気配がして、後ろから腕を引っ張られた。わたわたとそれに従ってサスケくんのほうへ移動すれば、イタチさんが笑う声。

「フフ、立派な騎士じゃないか」
「うるせェ、何の用だ」

 私はまだイタチさんから直接的に害を被ったことがないので、どうにも警戒心が足らないらしい。素早く距離を取ることに頭が回らないし、一瞬普通に会話しようとしてしまう。イタチさんの物腰柔らかな話し方と優しげな表情は、警戒心を抱きにくくするための罠、らしい。サスケくん曰く。

「プレゼントは気に入ってもらえたようだな」
「? なんのことだ」
「……?」

 『プレゼント』。イタチさんから何か渡された覚えはなく、サスケくんに目配せされて慌てて首を振る。そんなもの、裏が有りそうで怖いし、他の男からの贈り物ってだけでも怒るだろうに、ましてやイタチさんからの物なんて使ったら、サスケくんが怒り狂うことも目に見えている。そんな自殺行為はしたくない。
 二人で首を傾げていると、イタチさんがニヤリと笑う。それはサスケくんとよく似た、とても意地の悪い笑みだった。

「“水着”」
「……水着?」
「……あっ!」

 その言葉に、早朝のことを思い出す。
 私の鞄の中にあった、見覚えのない袋。ブランドロゴらしきものが描かれたその中にあった、この白い水着と菫色のレーストップス。自分で買って持ってきたはずの水着はなくなっていて、『これを着ろ』と言わんばかりだった。
 自分が青ざめるのが分かる。てっきり、サスケくんが回りくどい渡し方をしたものだとばかり思っていて、それがまさか、この人からの贈り物だなんて、少しも考えなかった。
 怒られることが分かっているから、一瞬言い淀む。だけど『ちゃんと言わなきゃ』と踏ん張って、声を絞り出した。

「……ご、ごめんサスケくん、この水着、私が買ったものじゃなくて、鞄に入ってて……」
「はァ!? そんな得体の知れねえもん着てたのか!?」
「ごめんなさい……」

 言い訳も聞いてもらえなさそうな様子に、とにかく謝る。分かっていたら、着なかった。だけどあの時サスケくんは寝ていたから、確認が取れなかったんだ。(本当にサスケくんがくれた物だった場合、いちいち確認なんかしたらそれもそれで怒られるだろう、と思ったのも事実だけど、今は飲み込んでおく)

「いいデザインだろう? 彼女の豊かな胸の谷間を楽しめて、お前の好きな“バック”のときには背中が見える。興奮したろう」
「……!」
「随分がっついていたじゃないか。彼女がふらふらになるまで、な」
「テメェ……!」

 どこからか見えるのか、と今朝居た岩場のほうを見る。だけどとても覗き見ができるような位置には思えなくて、イタチさんは千里眼でも使えるのかと恐ろしく思う。

「フ、いい顔で睨むじゃないか、サスケ」
「ふざけるな! こんなもん、叩き返してやる!」
「そう言うな。折角のプレゼントを無駄にするなよ」

 それだけ言うとイタチさんは踵を返し、ホテルのほうへ歩いていった。サスケくんはその姿が見えなくなるまでじっと睨み続け、それからようやく私の腕を放した。うっすら手形が付いていた。

「…………」
「…………」

 沈黙が走る。あの人は、場を掻き乱すだけ掻き乱して消えてしまった。
 なんでこんなことを、なんて考えたって、ただ意地悪をしたいだけで深い意味はないんだろう。思惑通りに遊ばれてしまったサスケくんは、色々な感情がぐちゃぐちゃになったみたいに顔を歪めている。
 人一倍独占欲が強い人だから、たとえこの水着にイタチさんの手垢が付いていないとしても、『イタチさんからの贈り物』というだけで嫉妬に狂うのだろう。以前に『挨拶』未遂があった時も、顎に触られただけだったのにお仕置きされた。今回はそれどころでなく、罠をそれと気付かずに楽しんでしまった。サスケくんの怒りの矛先が現在どこへ向いているのか、私には予想することすらできない。

 長い沈黙が続く。遠くのほうから聞こえる楽しげな声が場違いに思える。等間隔に届く波の音でさえ心が落ち着かず、背後のサスケくんへ視線を向けることもできない。せめて弁明はしなければと焦ったのか、単に沈黙に耐えられなくなったのか、ほとんど考えなしに、俯いたままそろりと口を開く。

「……あの、……私、これはサスケくんがくれたんだと思って……」
「黙ってろ!」
「っ、」

 怒声にビクリと体を震わせて、ますます俯く。
 そうだ、私がちゃんと確認していれば、こんなことにはならなかったのに。思い返せば、違和感はあった。そのときにちゃんと、聞いていれば。私がちゃんと、

「……着替えて、くるね」
「…………」

 サスケくんは相槌もしないで黙ったまま。そちらを見れないまま立ち上がり、更衣室に向かって歩き出してから、零れた涙を手の甲で擦り取る。次々溢れ出すから追い付かない。悔しい、自分の馬鹿さが悔しいよ。サスケくん、ごめんね。




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