知りたがりの困ったちゃん | ナノ

「……かげやま、くん」

「………」

え、待って待って。どういう状況なのこれ。きょうはお付き合いしている一つ下の影山くんの所属しているサッカー部がひさびさにお休みで、この休みを存分に利用して影山くんのおうちに遊びにきたわけ、なんだけど。いつのまに彼のほうはそんなやましい気分になっていたのやら、しばらく影山くんの部屋でほのぼのとしていたはずなのに、ぽすんと両肩を押されて彼のベッドに背中からダイブしてからは、白い天井と、ほんのり頬を赤くさせた影山くんの顔しか視界に入らない。

「え、えーと、どうしたの?」

「せん、ぱい」

ぼ、ぼく! と声を張りあげる影山くんに、ちいさい声でなんですかとかえすと、一瞬ぎゅうっと顔のパーツをまん中に全部よせて、(その顔がちょっとおもしろくって笑いそうになったのは秘密)すぐにいつもの真剣な顔にもどった。

「先輩のこと、ほんとに好きなんです。こ、んなことしてるから言い訳みたくなっちゃうんですけど、」

「……うん」

「い、ままで、誰ともつきあったことないし、このさい言っちゃえば先輩が初恋だし、」

「………おお、ほんとですか」「それで、先輩のこともっと知りたくて、もっと大事にしたくてどうしたらいいかって相談したんです。そしたら、か、狩屋くんに、ほんとに好きなひとにはこういうことをするんだって。保健の教科書で教えてもらって」

保健の教科書って……。笑いそうになるのをどうにかこらえてると、影山くんはわたしの顔をみて、「や、やっぱり嫌ですよね」とちょびっと泣きだしそうな顔をした。どうやら笑いをこらえるために顔に力をいれていたのが嫌がっているように見えたようだ。どうやら彼は狩屋くんに「相手がいやそうな顔をしたら十中八九引かれてるから気をつけろよ」とかいう余計なことまで教わってきてたらしい。

「いきなりこんな、きもちわるいですよね。……ごめんなさい。も、もう言わないから、わすれてくださ」

「あのね、影山くん」

ぶるぶると肩を揺らしだす影山くんの頬に右手をよせると、彼は大げさに体をふるわせた。ほどよくまるい影山くんのほっぺたをむにっと引っ張ると、あひゃあと間抜けな声をあげる。

「せ、先輩…?」

「きもちわるいわけないじゃん。女にもね、そういうことしたいって気持ちはちゃんとあるんだよ」

「え、先輩も?」

「……まあ、わたしも人の子ですから。でもね、女のほうが男の子よりもいっぱいしんどい思いするの。だからそういうことしたい気分じゃないときもあるの」

「………はい」

「いまはまだ、そういうことするときじゃないよ。影山くんがわたしのこともっと知りたいように、わたしも影山くんの知らないところいっぱい知りたい。もっと分かり合ってからでいいんじゃないかな」

たしかに、そうですねと笑った影山くんは、いまさらこの体制の危うさに気がついたようで、しばらく硬直してそれからふわぁっ! なんて大げさに叫んで体を退けようとするから、ちょっといじわるしたくなって。彼の頬に置いていたてのひらを紫の髪が映える頭にそのまま移動させて、手前にゆるく押すと、バランスをくずした影山くんがわたしの隣にばふんっと音をたてて顔面からダイブした。

「はな、いひゃい…」

「あはは、ばふんだって」

「せ、せんぱい〜……」

まゆを下げてわたしを見つめる影山くんにぎゅうっと抱きつくと、影山くんは先輩!? と茹で蛸以上に顔を赤くさせながら戸惑う。抱きついただけでこんなにまっかになっちゃうのに、よくもまああんな大胆なことしたよなあと今さらながら変に感心。

「ありがとう。いっぱい考えてくれて」

「……僕のほうこそ、ありがとうございます」

ゆっくりとまぶたをおろす影山くんを見つめながら、この純粋無垢だった彼に余計なことを教えた狩屋くんをどうお仕置きしようかと考えた。余計なことって言っても、いつかは必ず知ることなんだけどね。そうだ、霧野くんに頼んで叱ってもらおうかな。彼は霧野くんには頭があがらないみたいだし。でもとりあえず今は、子ども体温の影山くんにあたためてもらいながら寝ることにしよう。


知りたがりの困ったちゃん


影山輝/20120203


茉莉花 に提出


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