世界のはじまりなんてたぶんそんなものだ | ナノ

新入部員同士(プラス大地さんと田中)で行われた三対三は、見事日向・影山・田中チームが勝利した。飛び上がって喜ぶ日向くんと影山くんにほっと胸をなで下ろす。とくに影山くんは、負けてしまうと三年生がいる間はセッターをやらせてもらえないって条件だったから、余計に喜びに溢れている。日向くんも日向くんで、これ以上はないってくらい嬉しそう。わたしは一緒にプレイすることはできないけれど、こういった喜びを共有することはできる。だから運動部のマネージャーはやめられないんだよなあ。
肩を落としている月島くんと山口くんのもとへ駆け寄った。当たり前だけど、勝負をするということは、勝者と敗者を決めるということ。勝って喜ぶ者と負けて泣く者が同時に存在する、ということ。それが試合であり勝負。

「お疲れさま。負けちゃったね」

「……先輩は向こうのチームに肩入れしてたみたいですし、うれしいでしょう?」

気まずそうに顔を逸らす山口くんとは対照的に、嫌みをたっぷり含んだ言葉を投げかけてくる月島くん。まあ、そりゃあうれしくないわけではない。肩入れしてたは言いすぎだけど、それなりに応援はしていたわけだし。でもそれだけじゃない。

「うん、うれしいよ」

「……」

「月島くんが本気で試合してくれたもん」

「……は、」

おお、すごい顔。短いまゆ毛はいびつに傾いて、おかしいでしょなに言ってるのこの人ってほっぺたにでかでかと書かれている。そのくせ汗で顔全体が濡れているのがまたミスマッチだ。

「月島くんたちはこの試合に負けてもなにもデメリットはないし、手を抜くんじゃないかって思ってた」

「まあ、最初は、思ってましたけど」

「でも本気だったよね。思わず半袖になっちゃうくらいには」

「……性格悪いですね」

「ふふ」

月島くんには言われたくなかったかなあ。そう思ったけど口には出さないで笑うだけに留めておく。だけどなんとなく言いたいことは察したんだろう、ジトッとした目で見つめられた。そしたら大地さんもわたしたちに近づいてきて、わたしと同じ旨の内容を月島くんに伝えていたので笑ってしまう。月島くんの眉根にさらにしわが刻まれた。





烏野高校バレーボール部のジャージを羽織ってきゃっきゃしている一年生たち(主に日向くん)を段ボールをたたみながら眺める。うんうん、部活ではじめてジャージをもらったときってすごくうれしいよね。その部活の本当の一員になれたっていう証みたいで。わたしも一年前は、母親が子どもの成長を見守るような、こんな微笑ましい気持ちで先輩方に見られていたんだなあと思うとちょっとこそばゆい。

「お疲れさん」

「スガ先輩こそお疲れさまです」

いつの間にか近くに来ていたスガ先輩がわたしに声をかける。それに応えると、彼は恥ずかしそうに頬をかきながらわたしの隣に立った。

「自主練のこと、やっぱり大地は感づいてたみたい」

「そりゃあ、大地さんですから」

でも田中は相当分かりやすいから、あれは大地さんじゃなくても気づくと思う。そう続けると、それもそうだとスガ先輩は噴き出した。

「でも日向くんと影山くんのあの連携、ほんとうにすごいですね」

「そだな、俺も頑張んないとなー」

スガ先輩のほうを向いた。寂しげな横顔が影山くんを見つめている。そうだ、スガ先輩はセッターで、影山くんもポジションはセッター。つまり、正セッターを競わなければいけないということ。立場的にはスガ先輩が優勢だけど、贔屓目なしに実力だけを見てみると、たぶん選ばれてしまうのは、

「……スガ先輩」

「ん?」

スガ先輩もそれをわかってるから、だから、こうやって自分を奮い立たせるしか方法がないんだ。やってやるって思ってないと、押しつぶされてしまいそうで。だから、せめて。

「わたし、影山くんの正確なトスはすごくいいと思います。間違いなく強みになるだろうし」

「…………」

「だけど、スガ先輩の、たくさんたくさん練習した、相手のことを思ってるからこそできるトスが大好きです」

「、……うん、」

「旭さんにトスをあげるスガ先輩の姿、もっと見ていたいです。だから、その……」

頑張ってください。そう言いたいのにうまく口が動いてくれない。だって、今までスガ先輩が頑張ってなかったときなんて一度もなかった。それなのに、ここでこうやって頑張れって声をかけるのは、なにかが違う気がするんだ。言葉がだんだん尻すぼみになっていく。なんて言えばいいのか分からなくなって、謝ろうとした、とき。

「……応援してくれる?」

「え、」

スガ先輩と目があった。やさしいけど、力のこもったまっすぐな目がわたしを見つめている。目が離せない。

「みょうじが応援してくれるなら、頑張れる」

そう言ってスガ先輩はニカッと笑った。ああ、もう、ずるい。ずるいよ先輩。そんなこと言われたらスガ先輩ばっかりを贔屓しちゃうじゃんか。わたしはマネージャーだから、平等にみんなのことを考えなきゃいけないのに。心の中ではそう思っているのに、やっぱりわたしはふにゃりと間抜けに笑いながら「はい、先輩のこと、応援してます」と返すのだ。

「あのっ、みょうじさんっ!」

鼓膜をめいっぱい震わせる日向くんの声。振り向くと、一年生みんなが列になって並んでいた。八つのひとみがわたしをつらぬく。一部はめんどくさそうに細められてるけれど。

「こっ、……これから!よろしくお願いしまっす!」

日向くんに合わせて、みんながそれぞれわたしにお願いしますと頭を下げた。そんなそんな恐れ多い。みんなのプレイを見て楽しませてもらってるのはわたしのほうだ。「こちらこそ、お願いします」と頭を下げると、日向くんたちは全力ではい!と答えてくれた。月島くんは始終めんどくさそうにしていたけど。
なにはともあれ、新生烏野高校男子バレーボール部、結成です。

(20130123)

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