みっちり四時間授業を受けた後は、楽しいお昼ご飯の時間。今日のお弁当にはだいすきな卵焼きが入っていた。きちんと完食して、友だちと他愛もない話で盛り上がっていると、遠くから聞こえる「みょうじー」とわたしを呼ぶ声。振り向くと廊下からひょっこり顔を出して、ちょいちょいとわたしを手招きするかわいらしい姿があった。いかめしい顔とのギャップがありすぎて思わず笑ってしまう。すると少し不機嫌そうなオーラをかもしだしたので、慌てて席から立ち上がって彼のもとへ向かった。
「田中、どうしたの」
「いまから大地さんのとこ行くんだけど、みょうじも来ねえ?」
「大地さん?いいよ。ちょっとみんなに言ってくる」
席に戻り、さっきまで話していた友だちに出かけてくると告げると、行ってらっしゃいと気持ちよく送りだしてくれた。廊下を出て、田中と一緒に大地さんのクラスへ向かう。
「でも突然どうしたの。呼び出しでもくらった?」
「ちげえよ。今日の昼休みに新入部員の入部届を潔子さんが大地さんのとこに持ってくって聞いたから」
「……で、大地さんに会うって理由つけて潔子さんに会いに行くってことね。なるほど邪なやつめ」
「違うから!いや間違ってもねえけど!新入部員がどんなやつか気になるだろ!」
「あーあーはいはいはいはい」
「……なんだよ、お前だってスガさんに会えたらいいなって思ってるくせに」
予想外の言葉に動揺して、階段の途中で思わず足を止めた。う、田中がすんごいニヤニヤした顔してわたしを見下ろしてくる。ほんの数分前まではわたしが田中よりも有利だったのに、形勢逆転とはまさにこのこと。こっち見んな田中コノヤロウ。自分だって潔子さんに相当お熱なくせに……!きっと睨みつけてみても、田中には逆効果。にたあとよけいにやらしく笑う。悪人面だ。そんなんだから新入生の女の子にも泣かれるんだ。
「おっまえほんと、スガさんのこと大好きだよなあ」
「ううううるさい!ほらさっさと行かないと潔子さんもう渡して帰っちゃってるかもしれないよ!」
「うお、それもそうだな!」
そう言うと田中はスピードをぐんとあげて階段を登りあげた。わたしも赤くなっているだろう頬を押さえながらはやくはやくと催促する田中を追いかける。くそう、もし会えたとしてもスガ先輩直視できなかったら田中のせいだ。
(20130115)