アスファルトから奏でられるわたしのローファーと南沢くんのスニーカーの擦れる音が、会話でかき消されていく。南沢くんといっしょに帰るなんて、会話が続くのかと不安だったけど、思ってたより途切れることはなかった。

「結局、漢字テストどうだったんだ?」

「休み時間に猛勉強して、なんとか再テストにはならなかったよ!」

「そりゃよかったな」

他愛もない会話が続くごとに、わたしは今まであまり話したことのなかった南沢くんのことがわかってきた。クールそうに見えて結構饒舌なとこ、上から目線でものを言うけど自分もそれに見合う努力をしていること、なにより、サッカーが好きなこと。南沢くんは無意識かもしれないけど、彼の会話のほとんどは雷門サッカー部のことかプロサッカーについてだ。太一が昔、「南沢は内申目当てでサッカー部にいるって言い張ってるけど、本当はサッカーが大好きなやつなんだ」と言っていたことを思いだす。その当時はただの太一の買い被りだろうと思っていたけれど、こうやってちゃんと南沢くんと話してみると、太一の言うとおりだな。

「もう大分暗くなってきたな」

「そうだね」
「そういや結構前、この辺に変質者情報が大量にでたよな」

変質者、その言葉に足を止めてしまう。辺りを見渡してみると、あのときは走ることに必死で周りなんか気にしていなかったけど、たしかにこんな道のりだった気がする。「苗字?」南沢くんが数歩わたしと距離をつくったところで振り向く。わたしが急に立ち止まったことを不思議に思ったのだろう。

「…わたしね、」

この話を聞いたら、南沢くんはどんな反応をするだろうか。いつもみたいに「お前がか?」と言って笑われるのだろうか。こんな話、いつになったって笑い話にはならないだろうけど。

「昔、この辺で変質者に追いかけられたんだ」

南沢くんの顔が一瞬だけこわばった。肩にかけているスクールバッグをぎゅうっと握りしめる。あのときの変質者は結構最近になって捕まったと聞いた。だけどやっぱり、いまだにわたしはあの変質者がいつ、また自分を追いかけ回してくるのだろう、と気が気でならなくなる。南沢くんはどんな言葉をわたしにかけるのだろう、と身構えていたのだが、彼から発せられたものは意外なものだった。

「…それは、お前が陸上部を辞めたことと、神童との仲が気まずくなったことも関係してんのか?」

「…うん」



わたしは雷門に入学してから、迷わず陸上部に入部した。昔から太一とサッカーしていたこともあり、その頃から足の速さを買われて運動会のリレーのアンカーにも進んでかり出された。その足を、中学で生かしてみたいと思ったのだ。太一にはサッカー部のマネージャーをやってほしいと頼まれたが、もう決めていたから、とやんわり断った。「仕方ないな」と笑う太一にはもう大人の香りが漂っていた。まだ中一なのに。
それから二年に上がって、陸上部にも何人か新入部員が参加しはじめたころだ。太一が興奮冷めやらぬ勢いでわたしに電話をかけてきたのは。

「すごい新入生が入部してきた!」

新入部員選抜テストで驚くほどの指揮を見せられた、さらにテクニックも高い、もちろんあいつは即決だった、と小さい子どもみたいにおおはしゃぎでわあわあとまくしたてる太一に耳を押さえながら、「そうなんだ、会ってみたいな」と言うと、「じゃあ明日サッカー部に見に来ないか?」と返事がきた。

これが、わたしと神童くんの出会いだった。


20110618
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