これはこれで





「精市。どうやら武田は、酒は余り得意では無いらしい。」



そう聞いてから、真田を言いくるめて彼女を飲みに誘うまで、俺の手並みは鮮やかだったと思う。好きな子酔わせてお持ち帰りとか、男だったら一度は考えることじゃないか。それも、相手は堅物な真田の幼馴染。いつも自然と一緒にいる2人に、何度真田をイップスに追い込もうと思ったことか…。いや、もうそれはいい。漸くあの子を手に入れるチャンスが来たのだ。早々に真田を潰してしまって、後は蓮二に任せてしまえばいい。俺はじっくりあの子を…って、思っていたのに、



「あれあれ。弦一郎君、もう潰れちゃったねぇ。」



お猪口で飲むのはまどろっこしいのか、既に手酌で然もジョッキで日本酒を煽り出した彼女の顔色は、店に入る前と全く変わらない。どういうことだ。話が違う。ぐらつく頭を抱えて蓮二を睨みつければ、彼女の飲みっぷりに呆気に取られていた蓮二が漸く我にかえった。



「…武田。お前、酒は苦手なんじゃなかったのか?」

「んー。苦手っていうか、いくら飲んでも酔えないから、進んでは飲まないかなぁ。」

「………すまない、精市。」



またジョッキを一気に煽った彼女に、蓮二が自分のデータを書換えながら謝るが、そんな謝罪なんて聞きたくないし、お前のデータなんてどうでも良い。彼女のペースに合わせて飲んだ俺は、初めて酒で限界を迎えたのだ。お持ち帰りの夢も敗れた今、俺に残されたのは蓮二のデータ帳を一冊残さず燃やし尽くすという、ささやかな復讐心だけだ。また新たに酒を注ぎ出した彼女に項垂れ、机に顔を伏せる。



「ん、幸村君ももうギブ?まぁ、弦一郎君よりも飲んでたもんねぇ。」



くしゃり、
伏せった俺の頭を撫でる感覚に、勢い良く体を起こす。が、直ぐに頭がぐらついて体は傾く。え、ちょ、今のって、



「あらら、急に動くと辛いんじゃない?少し横になってたら?」



傾いた俺の体を支え、ゆっくり寝かせてくれたのは華奢な手。それは柔らかな太腿へと俺の頭を導き、またも、くしゃり、



「動けるようになったら送ってあげるよ。だから、少し休んでようね。」



ぽかんとしている俺の髪を撫でながら、柔らかく笑う彼女。
………当初の計画とは違うが、これはこれで役得だ。



これはこれで



(結果立場は逆転したけど)

(彼女を家に連れ帰るのには成功したからね)



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