少女の時間





「ん、」



けしかけたのは私の方だ。
いつもお父様の事が一番な幸村が憎たらしくて、私を優先してくれない人なんて要らないとお父様に言った。
要するに、彼を私の傍から離してくれと。

大体、今時『用心棒』って何よ、シークレットサービスだとか、ボディガードとか言ってよ。
いや、そんな事はどうでも良いのだ。
問題は、今、この状況だ。



「っ幸村、やぁ…、」

「そなたが言うたのだろう?『舐めろ』、と。」



何なんだろう、この状況。
どうして私は幸村に、
熱い舌が太股までのぼってきて、ひくりと喉が震えた。
確かに、私は言った。
用心棒を続けさせろと言う幸村に、足を舐めて頼むならと。
だって、本当に舐めるだなんて、思わなかったんだもの。



「何故、俺を要らぬ等と親方様に申した?」

「、ん」



内股の柔らかい場所に歯を起てられて、びくりと肩が跳ねた。
やだ、こんなの幸村じゃない。
幸村は、いつもにこにこと馬鹿みたいに笑ってて、馬鹿みたいに一直線で、馬鹿みたいに優しかった。
私より10歳も上なのに、まるで弟みたいな。
でも、今私の足に舌を這わしているのは、別人。
酷く獰猛な光を瞳に宿した、大人の男だ。



「幸村、やだ、」

「嫌がっても止めぬ。仕置きだからな。」

「ぃ…っ!?」



酷い。酷い。酷い。
どうして、どうして私が『仕置き』を受けなきゃいけないの。
ひくひくと、小さな子供みたいにしゃくりあげて、いやいやと拒絶には届かぬ否定を繰り返す。
それが、余計に幸村を楽しませるだけだとも気付けずに。



「さぁ、足だけではもう足りぬだろう?
どうして欲しい?」



どうして欲しい?
そんなの、やめて欲しいに決まっている。
それを弱々しく掠れてしまった喉から零すが、幸村の望む答えとは違ったようだ。
柔らかな内股に食い込んだ幸村の犬歯が、そこに無数の裂傷を綺麗に並べた。
皮膚が薄い故に痛みは増す。
なのに、それを熱い舌でなぞられれば、そこからゾクゾクと痺れのような甘さが身体中に広がるのだ。
それが、どうしようもなく怖くて、けれど、どこかで望んでいる自分も居る。



「もう一度聞こう。
俺に、どうして欲しい?」



幸村の身体が私の上に伸し掛かる。
色っぽい視線で私を捕えたのに、反して優しい掌が頬を包む。
どうして欲しい?
そんなの、そんなの、



「、幸村が欲しい…
私だけの幸村が欲しい、そうじゃないなら、」



いらない。
子供みたいなワガママ。
だって、仕方ないじゃない。
私は、子供なんだ。
幸村より10歳も下だし、大人ぶって見せても手に入らないものを強請ってこうしてぐずって。
せめて、なんて嗚咽を零さないように堪えながら、みっともない泣き顔を両手で覆って隠す。
もういやだ、早く出ていって、これ以上私に惨めな想いをさせないで。
途切れ途切れに連ねていれば、顔を覆っていた両手を大きな手に搦め捕られ、頭の上に縫い止められた。

いやだ。
涙でぼやけた視界に瞼を落とそうとしたが、急に首元に顔を埋められて、逆にぱちり、大きく開いてしまった。



「くれてやろう。」

「、…?」



何を、?
ぱしぱしと瞬きを繰り返して視界がクリアになった頃、幸村が顔を上げる。
そこには、酷く色濃い艶を載せた男が笑っていて。
ぞくり、なにもされていないのに身体の何処か深いところが疼く。



「俺が欲しいなら、いくらでもくれてやろう。
但し、条件がある。」

「じょう、けん…?」



何故か急に瞳がうろめいてしまい、無意識に内股をすり合わせた私のそこを、幸村はさも当然と言わんばかりに膝で割り開いて身体を重ねたのだ。



少女の時間。



(この日をどんなに待ち侘びたか。)

熱い掌が服の中へと滑り込む。

(この熟れた身体に残る幼い心ごと、)

酷く恥ずかしいことを次々に与えられて、

(そなたの全ては俺のものだ。)

私は甘く蕩けてしまった。



***

2010.12.25
企画『つがう』様へ提出。

く、黒幸村になっちゃっ…た…っ!
当初のプロットではヒロインが翻弄する予定でした。









第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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