こんな子でした


 
 
 
「おーい、ゆみちゃーん?」

「………」



どうしたの、この子。


今日は久々にゆみの仕事が休みなのに、生憎と俺の方が仕事で。
俺のアパートに来たってメールを受けたのは、定時の5分前。
急いで帰れば、玄関の扉を開けるなりゆみは飛びついてきた。
そうしてコアラの様に俺にしがみつき、一言も喋ることなく今に至る。
普段はこんな風に甘えたりだとかを一切しない子だから、俺としては嬉しいんだけどね。
普段しないことをするって事は、何か有ったって事じゃない?



「ゆみー?
あ、もしかしてまたパートさんに苛められたの!?」

「…それは倍で返り討った。」

「あららー…」



ハッと思い付いた心当たりに、漸く口を開いたけど、恐い台詞だこと。
まぁ、普段はのらりくらりと気の向く侭だけど、元々言いたいこともハッキリ言うし、中々好戦的な子だ。
俺も、そこに惚れちゃったんだけど。



「……お母さん、」

「ん?」

「…怒られた。」



あー…、親子喧嘩かぁー…。
それなら頷けるかも。
ゆみは猫みたいな子だけど、母子家庭で育って、女手一つで育ててくれたお母さんが大好きだからなぁ。
喧嘩だって、片手で事足りるくらいしかしたことないらしいし。



「何で怒られたの?」



頭を撫でながら、理由を聞いてみる。
俺の予想では、『面倒臭い』ってご飯を食べなかったか、お風呂を何時間もジャックしたか。
んー、やっぱ前者の方がカタいかな?



「…優志が…声優になりたいって…」

「…は?」

「私がちっちゃい時から友達も作らずアニメと漫画ばっか見てたからって言うか現在進行形なんだけど寧ろ中学辺りから同人活動してたりしてんだけどそんな姉に感化されたから優志が声優になりたいとか言うんだって怒られた!」



やっべー、この子スイッチ入っちゃったよすっごいノンブレス。



「良いじゃん寧ろ英才教育じゃん行く行くは私の書いた小説をメディア化して優志に声あてさせれば良いじゃんなんかDA●GOんとこの姉弟みたいじゃんってかオタクの何が悪い寧ろマンセー!!」



…すいません、この子すっごい腐女子なんです。

あれ…俺、誰に言ってんだろ…?



「チクショー良いじゃん声優!
私だって子●さんとか三●さんとか中●さんとか平●さんとかさぁ逢いたいてか愛を囁かれたい!!」

「ちょっと!?彼氏の前で何てこと言うの!!」

「そう言やお前●安さんに声似てんなコノヤロー!!」

「人の話を聞きなさいってば!!」



凄いよこの子…
久々に舌好調なとこ見た…!



「うぅー…子●さんに攻められたいー…
佐助ー…どうしたらいい…?」

「だから、彼氏目の前にしてなんてこと言うの!
大体、俺様以外に攻められるなんて許しません!」

「…攻めてくれるの?」



………ん?



「ねぇ、攻めてくれるの?」

「あれ、何コレ俺様白昼夢見ちゃってる?」



まさかまさか。
ゆみちゃんに限って、こんなエロいデレかたしてきた―――こと、一回あったか…
あれだ、ゆみちゃんが好き過ぎて、手を出しあぐねていたときだ。
あん時もエロデレだったなぁ―――…



「って、コラ!
何処行こうとしてんの!?」



思わずニヤニヤしながらあの日のことを思い出してたら、ゆみちゃんは帰り支度をして出て行こうとしているじゃないか。
待って待って、何で期待させといて帰ろうとしてんのかなこの子は!?
慌てて靴を履きかけてたその手を掴んだら、ゆみちゃんは可愛く小首を傾いで瞳を瞬かせた。



「いや、政宗のとこでも行こうと思って。
ほら、アイツの声って中●さんに似てるから。」



あ、さっきの顔可愛いとか、一瞬でも思った俺様が馬鹿でした。



こんな子でした


(勿論エロ宗のヤツにみすみすチャンスなんて与えるもんか!)

(素早くベッドに連れ帰って、気絶するまでたっぷり身体にお説教!)

(それでも目を覚ましたゆみちゃんは満足そうだったから腑に落ちないんだけどね!)



***
2011/1/16
元ネタはチキ口家での実話。
弟はこの春東京に旅立ちます。


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