03
「おはよー」
「Hey,Honey!
もうmorningじゃねぇぜ?」
「はいはい。」
幸村と波瑠ちゃんを朝から見てしまうと、それだけでやる気が失せた。
いつも通り早くから起きてたのに、あのあと私はベッドに舞い戻って二度寝。
制服着たままだったからスカートは皺だらけだし、若干寝癖もついてしまったけど。
それでも、ちゃんと学校に来た私を誉めて貰いたい。
私を見るなり絡んでくる隣の席の伊達を適当にあしらいながら、私は席に着いた。
「…塙音ちゃん、俺様に何か言うことは?」
「おはよう、猿。」
「猿は止めなさい!
全く…先生に遅刻の理由とゴメンナサイでしょ!」
私が到着した4限目は、うちのクラスの担任の佐助の授業だった。
新米のくせに担任とか生意気だが、私は佐助のことは年の離れた兄のように慕っているつもりだ。
幸村の従兄弟だし、小学生に上がる頃には佐助も幸村の世話役としてずっと傍にいたし。
…まぁ、あの頃の私達にしたら『兄』とか『世話役』とかより、『楽しいオモチャ』に近かったろうけど。
「今日は、一番に見るのは猿飛先生が良いなと思ったんで、自主的に時間割変更しました。
せんせー、ゴメンナサイ。」
「…まぁ、良いとしよっかな。」
…佐助、チョロすぎる。
そして、私が言うのも何だけど、教師にあるまじき言動だよ。
遅刻とか屁理屈とか咎めようよ。
それが教師の務めでしょうに。
そう思ったのは、まぁ、やっぱり私だけじゃなかった。
「猿飛テメェ、前々から思ってたけどよ、塙音に甘過ぎんだろ!」
「うるさいよチカちゃん!
塙音ちゃんは俺様の可愛い可愛い妹なの!」
「血繋がってねぇだろ!
てかチカちゃん言うな!」
始まった元親と佐助の口喧嘩。
元親は、『チカちゃん』と言う愛称がすこぶる似合わない、ガタイの良い不良然とした奴だ。
中身は可愛い奴だけど。
「Honey,寝癖がついてるぜ?
珍しいな。」
「ちょっとそこ!うちの塙音ちゃんに気安く触んないでよ!」
「佐助ー、授業始めてよー。」
「塙音ちゃんは、自由だねぇ。」
「慶次、あれは自由じゃなくて俺様っつーんだ。」
慶次まで割り入ってきて、もう授業どころじゃ無いよコレ。
みんな好き勝手に話し出して、もう収拾がつかない。
私の寝癖を手櫛で梳かしてくれてる伊達と、それに噛付く佐助はうるさい。
いつもなら、幸村もここに割って入るのに、今日はずっと静かだ。
教室に入ってきた私に何を言うでもなく、何処か不服そうに私の背中に視線を送ってくるのみだ。
普段はいやだった一番前の席に、今日ほど感謝したことはあっただろうか。
くありと欠伸を零して、私は窓の外に視線を移して、教室の喧騒をBGMに転寝を開始した。
視線が痛い、
(幸村の視線はこんなに鋭かったろうか?)
(なんか、やっぱり今日はサボればよかったかも。)
(お昼は、佐助に甘えてみようかな…)
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