02(2/2)





「・・・」



紺碧色がゆるりと瞬きによって見え隠れする。
幸村と佐助は、その何処までも澄んだ色に魅入られたように息を飲んで見詰た。
その瞳は、数度天井を仰いだ後、ゆっくりと二人の方に移される。
矢張りゆるりとした緩慢な動きで二人を瞳に映すその表情は、幼い子供の割には妙に落ち着いていて。
知らない場所だろうに戸惑いの色も滲むことなく、只、現状を考察しているかのようだった。




「さ、佐助!
女中に食事の準備を!」

「はいはい。
お姫様、少し待っててね?
旦那、少しだけこのお姫様のお世話しててねー。」



と、暫くぼぉ…っとしていた幸村だったが、弾かれた様に少女が暫く何も食べていないことに気付き、声を張った。
佐助もそれに気付き、少女に向ってにこりと微笑んで見せると静かに部屋から出て行った。
それもジッと見詰ていた彼女は、部屋に残って自分を心配そうに覗き込む幸村に視線を戻すと、ゆっくりと身体を起こした。



「な、ならぬ!
お主は1週間も寝たきりだったのだ。
急に起き上がっては―――…ッ」
「・・・」



おろおろと慌てる幸村の言葉は無視。
少女は布団から起き上がると、小さな両手で丁寧に布団を整える。
幼いのにしっかりとした少女は、感心したように呆ける幸村にペコリと頭を下げ、とたとたと小さな足音と共に部屋を出ていく。
つられる様に丁寧に頭を下げた幸村はその後ろ姿を見送り、暫くして我に返る。



「ぬ!?
ま、待ってくれ!何処に行くつもり―――…」



慌てて後を追いかけた幸村は、今正に門をくぐって出て行こうとする少女と、その少女を捕まえた影にピタリと止まった。

正確には、その影の笑顔に止まってしまったのだが。



「こーら。
起きたばっかりだって言うのに、何処行こうとしてるのかねぇ?
…旦那?俺様、『暫く見てろ』って言ったよね?
何を丁寧に見送っちゃってんの?」

「む…。す、すまぬ…」



少し抜けた主の行動を諌めながら、佐助は少女をひょいと抱き上げた。
少女はどうして引き留められているのか分かっていない様子で、きょとんとした表情で佐助を見ている。



「あのね、君は一週間ずっと眠ったままで飲まず食わず。
只でさえ俺様達が見付けた時も衰弱してた子が、ふらふら何処に行こうっての?」

「・・・」



小さく嗜める佐助の言葉に、少女は小さな手で外を指さした。
其処は、彼女を保護した森。



「・・・あの森に行こうっての?」

「・・・」

「『うん』じゃないでしょ。
君みたいな小さい子を、一人であんなとこにやったら、俺様達、鬼じゃん。」



彼女は、なんとか宥めようとする佐助の胸をグイグイ押して降りようとする。
それを当然許せる訳なく、佐助はその抵抗を無視して、しゅんと項垂れている主人を捕まえて歩き出した。



「取敢えず、二人はお説教だからね。」

「・・・」

「お、俺もか!?」

「当たり前でしょ!
旦那がしっかりしてたら、お姫様は脱走なんてしなかったんだからね。」

「うむ…」



自らの従者に引き摺られながら項垂れる幸村。
彼の従者である佐助の腕の中に無表情で納まる小さな少女。

小さな少女は、自らの状況を嘆くかのように二人も気付かないほど小さな溜息を零した。



目覚め、そして脱走。



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