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ゴツ…ッ!!

「ぐぁッ!?」

「ちょっと、旦那ぁ…
頭ぶつけるの何回目?」



手の掛かる主と連れ立ってやってきた、目的の洞窟。
暗くて狭いから気を付けろと何度も忠告したにも関わらず、幸村は数歩歩く度に頭をぶつけては悲鳴を上げる。
学習しない主に溜息を吐きながら、佐助は歩みを続けた。



「ぬぅ…斯様に此処は狭かったか?
以前は、何処もぶつけるようなことは無かったが…」

「あのねぇ、旦那。
以前って、『弁丸様』がこんな時だよ?
どれだけ成長したと思ってんの。」

「俺はもう元服しておる!
もう弁丸ではない!」

「いや、だから最後にここに来たのは旦那が『弁丸様』だった時で―――」

「だから!俺は弁丸でなく、真田幸村だと申して居るだろう!!」

「…俺様、もう旦那と話すのヤダ…」



全く、この主と話しても中々噛み合わない。
僅かな頭痛を感じながら、佐助は洞窟を進むことにした。
と言っても、この洞窟は5尺程(※現代で約15m程)の深さ。
大人の足では奥まで到達するには本当に直ぐで。
尚も頭をぶつけているのだろう、幸村の悲鳴を背後に聞きながら漸く最奥に辿り着いた佐助は、手にしていた明りに浮かび上がった紅に、ハッと息を飲んだ。



「ちょ、旦那!!」

「む!?どうした!?」



いつも飄々としている佐助が、らしくもなく切羽詰った声を上げるのに、只事ではないと幸村も急いだ。
そして、佐助が目にした紅を見て、彼もまた驚きに眼を丸くした。



「―――童…か…?」



その紅の正体は、鮮やかな紅の衣を身に纏った小さな女の子。
随分と騒いで居たのに、ぴくりとも身動ぎをせず、ぐったりと身を伏せているのに最悪の想像が頭に過る。
サッと佐助が近寄って、その小さな身体を抱き上げる。



「旦那、まだ息がある!」

「誠か!?」



二人が中腰にならなければ身動ぎも取れない程狭いその場。
佐助の腕からその小さな身体を受け取った幸村は、小さく上下している胸を見て、ホッと安堵した。
まだ生きている。
自分は、この命を託された。
小さな命を、夢の中で託されたのだ。



「佐助!急ぎ城に戻り、薬師を!
俺も直ぐに帰る!」

「はいはいっと。
旦那、帰りも頭ぶつけないようにね?」



洞窟を抜け、主の命を受けてサッと姿を消す忍びを見送り、幸村は腕の中の小さな身体を抱き締めて、洞窟を振り返った。
当然、其処には誰も居ない。
けれど、幸村は勢いよく頭を下げた。



「―――某、真田源次郎幸村と申す!
この小さき命、確かに某がお預かりいたした!
某の命を懸けて守り通す故、安心召されよ!」



夢で自分にこの命を託した女が、既にこの世に居ないことをなんとなく幸村は感じていた。
だから、真剣に挨拶をしたのだ。
どうか、安心して欲しいと。
安らかに眠ってほしいと。

すると、何処からともなく強い風が吹いた。
ザァッと髪を乱す風に思わず目を瞑れば、何処からともなく声が届いた。



『ゆみを…頼みます…』



姿は無い女の声。
それが、夢の女の声だと直感的に思った。
そして、この小さな少女の名も。
ギュッと、今一度小さな身体を抱き締めて、幸村は頷いた。



「承知した…!」



先ずは、この小さな命を繋がなければ。
自分の愛馬に颯爽と跨り、幸村は走り出した。



託されたのは、愛しき命。



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