19(1/1)


 
 
 
「ゆみちゃん?黙ってたら分かんないでしょ?」

「…」



ここ数日は幸村や政宗が口論を続けていた広間。
然し、今その広間で口論をしているのは佐助とゆみの二人。尤も、ゆみは一言も喋らず、子供の用に頬を膨らませて拗ねているだけなのだが。



「ゆみちゃん、元の場所に返してきなさい。」

「…いや。」

「嫌じゃないでしょ?うちでは飼えないんだから、戻してきなさい。」

「飼うとか言わないで…。この子は、私が育てるの…。」

「無理に決まってるでしょ!人が虎の子を育てるだなんて、聞いたことがない。戻してらっしゃい!」

「い・や・だ…」

「ゆみちゃん!いつからそんな聞き分けの悪い子になったの!」



まるで、母と子供だ。この、意外に世話焼きなところが佐助が『オカン』と囁かれる由縁であろう。二人のやり取りを見ながら、伊達主従はひそりと心の中で佐助に同情した。然し、直ぐにその興味は佐助とゆみのやり取りにおろおろと狼狽えている幸村の腕に抱えられた存在に向く。
二人の口論の原因となっている、白い毛並みの子虎へと。
それは、鳴くでも危害を加えようとするでもなく、大人しく幸村に抱えられたまま、時折ゆみへと視線を向けている。それは何処か不安そうで、きっと、二人の口論の原因が自らの存在であると察しているようであった。



「そんなに怒るんなら、もういい…」

「ゆみちゃん…やっと分かってくれたんだ―――」

「私が、この子と森に戻る…」

「って、分かってないこの子!!」



むすりと拗ねぐれたまま、幸村の腕から子虎を奪ってギュッと抱きしめるゆみに、佐助は泣きたくなる。いや、既に目尻には涙が浮いている。
どうしても折れないゆみに、折れそうなのは自分の方。然し、可愛いからと猫可愛がりしてばかりでは、ゆみの為にならないのだ。自分が厳しくなくてはならないのだ。
なのに、意外にも頑固なところのある大事な大事なお姫様には、どうしても甘くなってしまうのだ。
それが分かっているから、幸村も特には口を挟まない。
まして、幸村も佐助も、ゆみにはもっと普段から甘えて欲しいと思っているし、我儘も言ってほしいのだ。
厳しく躾をしてみせるのも、結局は格好だけに過ぎない。

折れたな…

誰がそう口に零しただろう。
佐助は子虎を抱きしめて俯くゆみに小さく溜息を吐いたかと思えば、その頭を優しく撫ぜたのだ。



「…命は、いい加減に拾うもんじゃない。
でも、ゆみちゃんがそれは一番分かってるかもね?」

「佐助、」



だって、ゆみこそが、彼らに拾われた命に他ならないのだから。
暗に『降参』を含んだ言葉なのに、ゆみはそれに気付かないのか、不安そうに佐助を見上げる。それに佐助が苦笑を返せば、黙って見守っていた幸村がゆみの腕から子虎を抱き上げた。



「名を考えねばならぬな。御館様にもお知らせせねばなるまい。」

「あーあ。旦那、『甲斐の虎若子』の二つ名取られちまったね?」

「それ位、いくらでもくれてやろう。ゆみの守るべき存在の為だ。」

「あ…」



幸村の明るい笑顔と、いつもの軽い調子の佐助の会話。
漸くその意味を悟ったゆみは、次の瞬間には嬉しそうにその面を綻ばせるのだ。
この笑顔が見れるのならば、いっそ何処までも甘くなってやろうとすら思ってしまう。
自覚なしに自らの思う壺へと誘う大事なお姫さまの嬉しそうな笑顔に肩を竦めながら、佐助は子虎の為に湯の用意をしに走るのだった。



My Sweet Baby!



(この虎、そなたと同じ紺碧の瞳をしておるな…)

(お揃い…だね…?)

(なにやら、小動物同士が戯れているように見えますな…)

(So,cute!)

(…政宗殿、まだいらしたのでござるか?)

(真田テメェ表出ろ。)



.

- 46 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -