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「六?絶対…秘密…」

「…幸村様は兎も角、猿飛に隠し通すのは難しいと思いますが、」



城に入る手前。改めて念押しされた望月は、ゆみの膨らんだ腹を見て、もう何度目か分からない溜息を吐いた。
その腹に入っているのは、望月の制止を聞かずにゆみが保護した子虎。
本能的にゆみが『同じ』だと覚ったのか。
甘えはしないが、ゆみの抱擁を受け入れ、暴れることもなくそこにじっとおさまった。



「佐助、絶対…」

「怒るでしょうね」

「元の場所に、戻してこいって…」

「言うでしょうね」

「でも…」

「姫は、『約束』されましたからね…」



こくり。
望月の言葉に小さく頷き、着物越しに子虎を撫でたゆみに、望月は苦笑した。
ゆみは、何も子供のような安易な気持ちで子虎を連れ帰った訳ではない。
母虎の亡骸に、それに寄り添う子虎に、『命を預かる』責任を約束したのだ。
そのおこがましさは、重々承知の上だ。
一人で育てるのが難しいことも。
けれど、それ以上に守っていきたいと思ったのだ。



「…猿飛に反対されたら、説き伏せれば良いでしょう。
六めもお力添えします。」



尤も、佐助も十分ゆみに甘い。
自分が助言せずとも、最終的には佐助が折れてしまうであろうことは、きっと二人のやり取りを見たことのある者ならば誰でも分かるであろう。
それでも、そんな事に気付かないゆみは、望月が力になってくれると分かった瞬間、嬉しそうに小さくはにかんだ。
あぁ、この偶に見せてくれる小さな感情に、自分も絆されてしまうのだ。



「では、姫。
取敢えず、猿飛に見付らぬ様に部屋に戻りましょう。」

「うん。」



望月の言葉に頷き、城へ、その自分の部屋へと急ぐ。
木々を跳び移り、城壁から城内へと膝を曲げたが、それはバネになることはなくゆみの身体はふわり、浮いた。



「俺様に見付かると、何が拙いのかな?」


まるで猫のように首元を持たれて中に浮く身体。
ゆっくりと振り向いた先のにあるじっとりと細められた瞳。
早速見付かった事にゆみはむぅっと眉根を寄せて、小さく唇を尖らせた。不満を素直に表情に出すようになったゆみを可愛いと思うし、安堵もある。
だが、それでも甘やかしてばかりではいけない。
特に、自分の場合は。佐助は心を鬼にすることを決意して、眉を吊り上げた。



「先ず一つめ。
こんな刻限まで何してたの?暗くなる前に帰ってきなさいって言ったよね?」

「姫は幸村様の為にと土産を探してたんだ。それに未だ日も沈んでない。」

「お前に聞いてないよ。俺様はゆみちゃんに聞いてんの。」



途端、ゆみを挟んで睨み合う佐助と望月。
そんな思いもよらぬ展開に、おろおろと行き場も分からない侭に上げた手を彷徨わせる。
そんなゆみを安心させるのは、矢張りいつでもあの《紅》なのだ。



「おお、ゆみ!戻ったか!」

「幸…」



軽い足取りで駆けてくる幸村の笑顔に、自然とゆみの表情も和らぐ。
そそくさと佐助から逃げるように幸村の元に降り立つ。
それに笑顔を向けた幸村だったが、然し、不自然に膨らんだゆみ腹部を見てきょとりと首を傾いだ。



「ゆみ…そなた、その腹はどうしたのだ?」

「…うん、」

「・・・?」



素直にその膨らみを指差して問うが、ゆみは瞳を彷徨わせ、歯切れも悪い。
それに更に首を傾げば、未だ静かな口論を繰り広げていた佐助と望月も二人を囲うように降り立つ。
そうすれば、益々ゆみはおどおどと、佐助の視線から逃れようと狼狽えだした。



「ゆみちゃん、旦那も聞いてるぜ?そのお腹、どうしたのかなー?」

「姫、猿飛のことは無視なさいませ。」

「ちょっと、望月本当に煩いよ?」

「お前ほどではない。」



そうして、またも始まる口論。
状況が読めずに両の目をぱちぱちと瞬かせる幸村を見て、ゆみはへにょりと眉を下げるが、やがて意を決したように幸村に向かいゆっくりと口を開いたのだ。



…子供が、出来ました。



(な、なんと!?さ、佐助!!俺を殴れぇぇぇ!!)

(何で!?って言うか、ゆみちゃんが懐妊とか有り得ないから!)

(有り得ぬとは何だ!現にこうしてゆみの腹には俺の子が!)

(・・・姫、流石に今のは言い逃れとしてはどうかと、)

(…だって、)



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