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「姫、これは笑い茸です。
食べてはいけませんよ?」

「…危険?」

「そうですね…死にはしませんが、笑いが止まらなくなったりします。」

「…じゃあ、伊達殿に食べさせてあげよう…」

「ああ、それは名案ですね。」



日課になったのは、散歩という名の探索。
上田城の周辺は緑が豊かで、意外と活動的なゆみは、周辺の山々を隈無く歩いて回っていた。
けれど、過保護に扱われている故、一人では外に出してはもらえず、いつの間にか護衛の様になった望月六郎と一緒だ。
まだこの世界、土地に馴染みが浅いゆみには、迷子になることもなく、色々な薬草や山菜なども教えて貰えるので、嬉しい限りである。
尤も、邪気のないゆみに頷く望月は度々暴走しかけるが。

そして、目に付く限りの笑い茸を収穫し、ゆみは満足げに頷いた。



「…姫、次はあちらに行きましょう。」

「…何で?」



政宗に土産があるなら当然幸村にも土産がいる。
幸村に何かをと立ち上がり、更に奥に進もうと前方を見たゆみだったが、望月はやんわりと方向転換を促した。
小首を傾いだゆみは、進む筈だった方へと視線をやる。
自分には分からない変化を、忍である彼は察したのだろう。
危険なのかもしれない。
けれど、駄目だと言われるとしたくなる。
存外お子様思考なゆみは、予定通りの方へと進み出した。



「、姫…っ、」

「…血、の匂い…?」



ずんずんと足を進めれば、ふと鼻先を掠めた鉄臭さ。
怪我人が居るかもしれないのならば放っては置けない。
更に突き進んでいったゆみは、不意に響いた獣の雄叫びに軽く肩を揺らし、次の瞬間には疾風の様に走り出していた。



「、姫っ!!」



望月の制止は間に合わない。
次に彼が目にした大事な姫は、その華奢な身体で大きな熊の腕を受け止めていた。



「…お前、この森の者じゃない…
…帰りなさい…」



冷ややかな冷気を纏いながら、怒りに瞳を眇るゆみ。
数々の戦を経験してきた望月でさえ固まってしまう程の静かで荒々しい空気。
それは彼女の何倍も大きな熊でさえ圧倒した。
先程の唸りが嘘のように弱々しく鳴いた熊は、素早くその場を逃げ出した。



「、姫!!
なんて無茶を!!怪我は!?」

「大丈夫…私は、ね…」



暫く見守るだけだった望月も、それに漸く我に返る。
弾かれた様にゆみに駆け寄れば、彼女は普段の緩やかな空気を取り戻し、けれど少し苦しげな表情で、ゆっくりと振り返った。



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