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「政宗殿は一体いつまで居られるつもりなのだ!?
いい加減、御自分の城に帰って下され!」

「真田の言う通りですぞ政宗様!
仮にも此処は敵将の城だと言うのがお分かりですか!」

「ha!テメェ等も諄い!
帰るならhoneyも一緒だっつってんだろ。」

「龍の旦那、うちのお姫様に《はにぃ》なんて訳分かんない呼び方しないでくんない?
アンタんとこにもやんないしね。」



ぎゃんぎゃんと今日も始まった口論を、ゆみはぼんやりと眺めていた。

幸村と柔らかな想いを繋ぎ合い、幸せに満ちた数日間。
その幸せのきっかけを弾き出したのは、敵武将で有る筈の伊達政宗で、彼はゆみに惚れ込んだと上田城に居座る。
最初は幸村と政宗、二人の口論だったが次第に業を煮やした佐助と小十郎も加わって。
当初はゆみも城の者が驚く程におろおろと狼狽えたものだが、翌日には諦め、3日後には自分の為に吠える幸村を愛おしそうに見詰めるだけで。
それが余計に政宗を意固地にさせているのには、ゆみは気付いていない。
色々と聡いと皆に思わせるゆみであるが、どうも色恋に関しての鈍さだけが目立ってきた。
これには、佐助だけでなく城に仕えるもの、ひいては小十郎までも頭を抱えたくなってしまうものだ。

そんな憂いの種となっているだなんて露知らず。
この口論に参加することは出来ないゆみは、2日前からの楽しみの時間になったことにゆっくりと腰を上げた。



「…佐助、いってきます…」

「あら、もうそんな時間?
ちゃんと手拭いと懐紙は持った?」

「…うん」

「危ないことはしちゃいけないよ?
それと、日が落ちる前には必ず帰ってくること!」

「…分かってる、」



佐助はそんなゆみの言葉に口論を一時抜けると、あれもこれもと世話を焼く。
ゆみもそれに素直に頷き、未だぎゃんぎゃんと怒鳴っている幸村を見て微笑み、その笑顔で佐助に向き直って小首を傾いだ。



「…いってきます………お母さん」

「ちょ、お母さんはヤメて!!」

「………オカン?」

「…せめて、オトンにして下さい」



こんなからかいを自分が仕掛ける日がくるなんて。ゆみはくすくすと軽い笑いを零しながら、上田城を後にした。



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