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―――…、

「、幸…?」



突然、幸村はゆみの両手を取り、片膝を着いて彼女の前に腰を据えた。
突然の行動に狼狽えたゆみは、下から真っ直ぐに自分を見上げる幸村に、また視線をきょろきょろとさまよわせた。



「もう一度、俺の名を呼んでくれぬか…?」

「、………?」

「幸村と…そなたの口から、俺の名を聞きたい。」

「、」



見たこともない大人びた表情で、幸村はゆみをジッと見詰める。
無意識に呼んでいた愛称じみたものでない彼の名を求められることが、とてつもなく恥ずかしく、嬉しくもなった。



「ゆ…幸村…様…?」



たどたどしく呼んだ名前。
けれど、酷い緊張故か、何故か敬称をつけた上に疑問形なゆみに、幸村は甘い表情で笑った。



「ただの、“幸村”だ。
俺は、そなたに恋い焦がれる、一人の男だ。」

「、私に…焦がれ…る…っ?」

「ああ…ずっと、焦がれておった。
俺は、そなたが…ゆみが愛おしくて堪らぬ…」



何という熱い想いだろう。
そんな想いを告げられたのは初めてで、ゆみは胸をきゅうきゅうと締め付けられ、堪らず幸村の首に縋りついた。



「幸…幸村…っ」



幸村に触れると、幸せな気持ちになる。
日溜まりの匂いのする幸村の首筋に顔を埋め、何度も何度も名前を呼ぶ。
そうすると、幸村も応えるように強く抱き竦めてくれるから、ゆみの表情も甘い笑顔に変わる。



「伊達殿は…幸に怪我をさせたから、嫌い…
でも、幸とこうして触れ合えるのは、伊達殿のお陰だから…少し、好きになった…の…」



幸村と抱き締め合ったまま。
ゆみは蕩けそうな笑顔で言うものだから、幸村は複雑そうに眉を顰めた。



「余り、他の男の話をするな…
俺は未熟者故、嫉妬で暴れてしまいそうだ…っ」

「幸…」



がしがしと髪を乱しながら、バツが悪そうに拗ねる幸村が、可愛くて、愛しくて。
その手をとると、ゆみは自分の頬を包ませるように導いた。



「この身も心も、幸のもの…
私の全ては、幸村だけの為に…」

「、…っ!?」



幸村の硬い掌に頬擦りをし、ゆみは幸村の唇に自らの唇を押し充てた。
それは、一瞬のこと。
けれど、触れた唇の感触は柔らかく、甘く。
ふわりと微笑むゆみに、幸村は真っ赤な顔で狼狽えながら、目許を手で覆った。



「そなたは…狡い…、」

「うん…、」



してやられた顔の幸村は、お返しと言わんばかりにゆみに口付けた。
勢い余って互いの額をぶつけたが、それさえも愛おしくて。
二人は小さな笑いを零しながら、甘やかな一時を共有した。



いとし いとしと いふ こころ



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