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「佐助!佐助は居らぬかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



ドタドタドタドタ!
上田城に、けたたましい足音が響く。
然し、それもいつものことで、女中も兵も気にはしない。



「佐助ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「あーもう!旦那、五月蠅い!
おやつの時間は未だだってば!」

「そんな事を心配して居るわけではない!
俺のことを馬鹿にして居るのか!」



そして、この主従の口論もいつものこと。
熱く活気溢れる主、真田幸村。
飄々と流す彼の忍、猿飛佐助。
最早、この光景は上田城の名物の様なものであった。

息を乱した幸村に、佐助は肩を落としながら溜息を吐き、何事かを訪ねた。



「夢を見たのだ!」

「何?団子に埋もれる夢?良かったねー。」

「…お主は減給だ。」

「ちょっと待ってよ!?冗談だから!!」



『これ以上減らされたら、俺様死んじゃうから!!』
軽くあしらおうとした佐助の言葉は、明らかに主である幸村を馬鹿にしたようなもので。
腹を立てた幸村が、普段の彼らしからぬ低い声でピシャリと吐き捨てれば、佐助は慌てて取り繕う。
只でさえ、自分は有能な忍の割に薄給だ。
それに加え、猪突猛進型の主は忍使いが荒い。
割に合わない給料が更に減っては死活問題だ。



「…俺が見たのは、裏の森の夢だ。」



『奥に、俺が幼き頃に気に入っていた洞窟があるだろう?』
そう切り出した幸村の話の内容はこうだ。
自分の昔の秘密基地染みた洞窟が夢に出てきた。
自分は、夢の中でもまるで現のように意識があり、何かに誘われるようにその洞窟に向かった。
辿り着いたその洞窟の入り口には若い女が立っており、必死で幸村に洞窟の中を指差して、何かを訴える。
幸村は声を出して彼女に何事が問うが女は口が聞けないのか、只、必死に中を指差す。
取り敢えず中を見てみるしかないと幸村が足を進めれば、女は涙を流しながら安堵の笑みを浮かべ、深々と幸村に頭を下げた。
まるで、大切な何かを幸村に託すかのように。



「そこで目は覚めたのだが、どうにも只の夢とも思えん。
…と言う訳で、俺はこれからあの洞窟に向かうつもりだ。」

「…旦那、狐か怪に化かされてんじゃないの?」

「そうだとしても!
あの者は懸命に俺に何かを訴えておった。
化かされていたのならそれで良い。
然し、本当に何かあったとすれば…っ
俺はこの先、悔いても悔やみきれん。」



強い意志の宿った双眸で訴えられて、誰が反対出来ようか。
只でさえ、昔から佐助は幸村のこの目に勝てた試しはない。
最終的には、自分が折れるしかないのだ。

佐助は鮮やかな橙色の髪をわしゃわしゃと乱して、深く嘆息した。



「…旦那は、俺様の後ろを歩いてよね?」



不満そうに肯定を口にした忍に、主は満足げに笑うのだった。



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