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「………」
さて、幸村の部屋まで来たがどうしたものか。
こんな真夜中に、確実に迷惑だ。
矢張り、夜が明けてからにしよう。
ゆみが踵を返したその時だ。
「ゆみ…?
どうし―――…っ、もしや、また政宗殿が何か…!?」
「、あ、の…」
襖が静かに開き、幸村がひょこりと顔を出す。
月明かりに照らされたゆみの不安そうな顔を見るなり、また政宗が何かと焦る幸村に、ゆみは慌てて首を振る。
「あの…ね…?
………怖く、なって…、」
「怖い…?」
眉尻を下げて必死で伝えようとしているゆみ。
幸村は何に怯えているのか分からず、どうしてやることも出来ずに、ただ、待った。
「苦しくて、分かんなくて…
佐助は大丈夫だって…言ったの…
でも、苦しいのは、幸が私にだけ与えるんだって…」
「某の所為で…苦しい…っ?」
何故だ。自分は何をした。
大事な彼女を、苦しめている。
幸村は驚愕に目を見開き、ゆみの華奢な両肩を掴んだ。
途端、びくりと震えたが、苦しげだった表情はじわりと和らいだ。
「伊達殿は、私のは憧憬だって言った…
でも、違うのに、変わってる…」
「む、むぅ…?」
難しい。
彼女の言うことは的を得ていなくて、理解しがたい。
けれど、彼女こそ的を得れなくて、理解出来ていないから故だろう。
きょろきょろと視線をさまよわせたゆみは、ゆるゆると両の瞳を幸村のそれと合わせた。
「多分、だけど…
これは、幸を………幸村を、好きだから、だと思う…
私のこれは………幸村を、恋しいと、想ってるから、苦しいんじゃ、ないのかな…?」
「―――!?」
仄かに目許を染めて、おずおずと問うてくる。
幸村は再び両目を大きく見開き、耳まで真っ赤になった。
小さな少女を守ろうと思った。
守り、慈しみ、温かく見守ろうと思った。
けれど、少女は姿を変えた。
自分と変わらぬ年。
幼子ではない表情、身体。
幼子のままの心、行動。
あどけなさを残した艶やかな少女は、知らず知らず幸村の心を捕らえてしまった。
いや、違う。
本当は、もっと前に捕らわれていた。
本当の姿を知らぬ、幼子の姿をした少女を見付け、その腕に抱いた時から。
幸村は、ゆみと言う存在にずっと恋をしていたのだ。
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