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「…難しい…なぁ…」



ころり。
真っ暗な部屋に敷かれた布団。
その中で、ゆみは何度目か分からぬ溜め息と寝返りをした。

泉での一騒動を終え、幸村の馬に共に乗って上田城に帰ってきた。
鬼のような小十郎に説教される横で、ゆみも佐助に少しだけお小言を貰った。

危機感がない。
自覚がない。
危なっかしい。

溜め息を一緒に零す忍頭に悄げ、小さくなるゆみに彼は苦笑し、彼女の部屋まで着いてきてくれた。



『何があったの?』



小さな子供にするように優しく伺う佐助。
けれど、ゆみは首を振るだけだった。
分からない。
幸村を見ると、いつも通り温かい。
けれど、なんだか胸が苦しくて、訳の分からない衝動に駆られたくなる。
只、側にいたかった。
けれど、物足りない。

自分が浅ましい感じがして、幸村に嫌われてしまいそうで。

変わってしまうのが、こわい。

くしゃりとゆみが顔を歪めると、けれど佐助は優しい笑顔。
ぽすりとゆみの頭を撫で、嬉しそうに笑ったのだ。



『ゆみちゃんも、大人になったんだね?
だから、旦那を想うと苦しくなるのさ。』



佐助は知った様子だが、ゆみには難しくて。
大人になるのは、苦しくなることなのか。
どうして、大切な人を想うのが苦しいのか。
不安そうなゆみに佐助は苦笑し、そして、子供の姿の時に良くしてくれた様にぎゅうっとゆみを抱き締めた。



『大丈夫だよ。
その苦しさは、切ないって気持ちだから。
旦那だけが、ゆみちゃんに与えることが出来るもんなんだぜ?』



ぽすぽすと、あやすように背中に手を当て、佐助はゆみの部屋から出ていった。
それから、一人で考えるのだが、難しくて一向に答えに辿り着けない。
そうして、何度目か分からぬ寝返りを打ったゆみは、そろりと布団を抜け出した。

幸村は、どうして自分にだけこの胸の苦しさを与えるのか。
答えは、幸村が持っている。

月明かりだけを頼りに、ゆみは答えを求めて廊下を進んだ。



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