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「幸…、あの…、」

「む…どうしたのだ?」



幸村が『男』なのだと分かれど、どうして良いかは分からない。
顔は熱いし、心臓は先程から煩い。
けれど、何と言えば良いのか。
ただ真っ赤な顔で言い倦ねるゆみを見詰めていた幸村は、はたりと己のしていることに気付いた。
抱き締めているのは、一糸纏わぬ姿の大切な少女。
白く滑らかな素肌、細く壊れてしまいそうな身体、自分の胸に重なった柔らかなゆみの胸。
己の破廉恥な行いを漸く自覚した幸村は、ゆみに負けぬ程に顔を真っ赤にした。



「そ、某は、なんと、…!!」

「、ごめんなさい…直ぐに、着物を、」



あわあわと慌てる幸村に、おろおろと狼狽えるゆみ。
離れようとしたゆみを、幸村は咄嗟に強く抱き込んだ。
早く着物を着た方が良い。
それは分かるが、ゆみの素肌を政宗の目に映させたくはない。
どうすれば良いのか分からないが、確かな独占欲は幸村の腕に力を籠めさせた。



「ゆ、幸…っ?」

「す、すまぬ…っ
だが、見せたくはない、のだ…っ」



真っ赤な顔で、どうしたものか分からないながらも抱き合う二人。
見せ付けられる政宗は、呆れたように溜め息を吐いた。



「…真田、早くprincessに何か着せてやれ。」

「む、そ、そうでござるな!!」



政宗に促され、幸村は弾かれたように己の上着を脱いだ。
腕の中のゆみの肩にそれを掛け、政宗からも自分からも彼女を隠してそれを羽織らせた。



「取り敢えず、アンタは早く着物を着ろ。
俺と真田は向こうに行ってるからよ。you see?」

「そ、某もでござるか?」

「…お前、着替えを堂々と覗くつもりか?」

「、!?は、破廉恥でござるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



久々に聞いたとてつもない絶叫。
警戒すべき筈の政宗を置いて走り去った幸村に、ゆみは呆気にとられてしまうが、それでも小さく微笑んだ。

幸村は、優しい。
太陽のように温かく晴れやかな存在。
この世界で、ゆみの生きようと思える全て。
ただの小さな子供の憧憬は、その殻を破って中に隠れていた何かが、確かにゆみの胸の内に転がり落ちた。


「…変わって、しまう…?」



ぽつりと、ゆみは呟いた。
転がり落ちたそれは、自分と幸村の間の何かを決定的に変えてしまう予感がした。
それは、赤子のように無知なゆみの心を、言い知れぬ不安と期待で騒がせるのだった。



育ち始めたは、つたない想い。



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