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―――ヒュ…ッ
「其処までで御座る。
政宗殿、即刻その者から離れよ…!!」
「チッ…邪魔しやがって…」
「、幸…」
政宗が、きょとりと状況を読めていないゆみに口付けようと顔を寄せた正にその時。
二人の顔の間を何かが走り抜けた。
見れば、通り抜けたそれは、少し離れた場所に刺さった一本の紅い槍。
その槍が、誰の者かは明確で、飛んできた方には矢張り幸村が立っていた。
激しい怒りに肩を震わせ、唸るように低い声を張る。
それに政宗は舌打ち、ゆみはびくりと震えた。
幸村が怒っている。
見たこともない程の怒気を孕んだその姿に、ゆみは先程の無表情が嘘のように表情を変えた。
情けない程に眉を下げ、瞳に涙を滲ませて顔を歪める。
嫌われてしまう。
バシャバシャと怒りの侭に泉に入ってきた幸村に、ゆみは肩を竦めて怯えた。
「ご、ごめんなさ…、っ」
「政宗殿、この者は某の大切な娘。
安易な気持ちで触れないで戴きたい!!」
嫌われたくない。
その思いだけに駆られ、ゆみは許しを請おうとした。
けれど、それは最後まで告げることなく、幸村の力強い腕の中に閉じ込められていた。
ビリビリと空気を震わせる怒声は、ゆみにではなく政宗に向けられた。
それどころか、元の姿に戻って初めて強く抱き締めて貰えた上に、自分にとって大切な者とまで言って貰えた。
温かな嬉しさ。
ゆみは身体の強ばりを解き、安堵の息を零した。
「Hey,真田。
矢っ張りそのgirlがテメェの嫁か。」
「…そうでござる。
尤も、未だ正式な婚儀を挙げたわけではないが、」
「…」
政宗の問いに静かに答える幸村。
いつも只管に優しく微笑む童顔が、大人びた男らしいものに変わる。
それにゆみの胸はドクリと大きく跳ねた。
そうすると、今の状態も把握することになる。
幸村の戦衣は、上は裸に近い。
自分は、今は裸。
抱き締められることによって触れあう素肌に、ゆみは今更ながらに幸村は男なのだと思い知らされ、途端に頬を真っ赤に染めた。
あぁ、確かに政宗の言うとおりだった。
今までの自分は、確かに幼稚な憧憬を持って幸村を見ていた。
けれど、仕方のないことではあった。
ゆみは、根本的に自覚に欠けた子供であった。
男を異性だと自覚して意識したことはない。
幸村や佐助は兄のような存在だと思っていた。
ゆみは、恋を知らぬお子様だったのだから。
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