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「猿は“天弧ちゃん”とか言ってたな…
予想通り…いや、それ以上に良い女だ…」

「…」



―――バシャ…ッ



政宗は、着物や武具が濡れるのも構わずにバシャバシャと水面を波立たせながらゆみの方へと向かってくる。
彼の突然の行動に、華奢な肩をびくりと震わせながらも、ゆみはじりじりと後退する。
最も、それも直ぐに阻まれてしまうのだが。
バッと伸びてきた右手はゆみの細腰を掴み、左手は線の細い顎を捕らえて上向かせる。
至近距離でかちりと合わさる視線。
何処が弱さを秘めた、強く澄んだ紺碧の瞳。
その淀みない美しさに、穢してやりたいとか、征服してやりたいだとかの負の欲望を覚えてしまう。



「アンタは綺麗だ…
戦を知らねえ身体に瞳…そんな奴が忍だなんて、It is a foolish lie…(馬鹿げた嘘だな…)」

「…」



強い隻眼は、ゆみの正体を見透かしてしまうかのように鋭い。
それは、忍などではない等という物ではなく、ゆみがこの世界と繋がりすら持たぬと言うことまで見透かしそうな程。

桜色の唇を噛み締め、それでもゆみは政宗を見据えることは止めなかった。


内心では、本当にパニック状態だ。
けれど、それは正体を見抜かれそうだからではない。
幸村との約束を破り、許しを得ていない相手に素顔を晒してしまった。
幸村以外の男に、触れられてしまった。


幸村に、嫌われてしまう。


ゆみには、何よりも其れが恐ろしい。
ゆみの世界の全ては、それ程までに幸村ばかりだった。



「アンタの瞳は、真田一人の為に感情を走らせる。
知ってるか?どんな綺麗な女を抱いても見ることは叶わねぇ…sexyな激情を帯びるのを。」

「、…」



そんなゆみの心情を知ってか、政宗は機嫌良く口を開く。
その意味を噛み砕くことは、ゆみには出来ない。
それは、彼女がまだ『女』ではないからだ。



「見る限り、アンタはまだ気付いてねぇ。
餓鬼の幼稚な憧憬でしか真田を見てねぇ…you see?」

「…?」



難しい。
政宗は、まるで知らない異国の者のように意味の分からないことばかりを言う。
混乱を滲ませながらも、ゆみは必死で噛み砕こうとする。
だから、油断を見せてしまったのだ。



政宗は、瞳を伏せて必死で思案していたゆみをもう一度上向かせると、その顔をゆっくりと寄せていった。



龍じゃないよ、狼だよ。



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