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「…あった」



すとり。
木の上から飛び降りたゆみは、目の前に広がる泉に懐かしさを感じながら息を吐いた。

散歩にやってきたのは、あの森。
幸村に保護されるまで、ただ死を待っていたが、それでも毎日身体は綺麗にしていたくて。
この泉は、温泉と川の流れが混じって出来た物のようで、少し温いが心地好いものだった。



「、少し…温度が上がった…?」



臑当てや履き物、足袋等を脱ぎ揃えて足を浸けたゆみは、小首を傾いだ。
ぬるま湯のようであった泉は、浸かっても肌寒さを覚えない。
きょろきょろと視線を動かせば、流れ込んでいた川の流れが細くなっていて、それが泉の温度を上げているのだと推測できた。



「…これなら…浸かれる…?」



独りごちて呟き、泉の中心に視線を向ける。
丁度、その下の方から温泉が湧いているのだろう。
湯が穏やかながら盛り上がり、岸まで波紋を伝えてゆく。
思い立ったら吉日。
一度泉から脚を抜くと、少し辺りを伺ってからゆみは着物を解き始めた。

ぱさり、
小さな衣擦れの音と共にその身体から滑り落ちていく着物。
纏う全てを脱ぎ捨てたゆみは、狐の面も取り払って脱いだ着物の上に重ねた。

自らの腕で身体を隠しながら、再びちゃぷりと泉に入る。



ちゃぷり、ちゃぷり、
静かに足を進め、中心に近付いた頃には、臍の辺りまでが温水の中に隠れていた。
長い髪の毛先は水面に漂い、ゆみの細腰にぺたりと貼りついた。



「気持ちいい…」



ふわりと表情を綻ばせ、水面を指で掬って遊ぶ。
静かな川のせせらぎ、さわさわと葉擦れの音を起てる木々、時折何処かで鳴く小鳥のさえずり。

心地好い其処に居ると、自然と幸村や佐助達の顔が浮かぶ。
彼らはもう知っている場所だろうが、共に来たことはないのだ。
誘って一緒に楽しみたい等と、幸村に言ったら破廉恥だと叫ばれそうなことを一人考えていた。
そこに、だ。



―――ぱき…ッ

「、!?」



背後から聞こえた、小枝が折れるような小さな音。
はっとして振り返った先に認めた人影に、ゆみは瞳を大きく見開いて息を飲んだ。


「Ah…覗くつもりは無かったんだが…」



ばつが悪そうに頬を掻きながら茂みから出て来たのは、注意していた人物。
大好きな幸村に怪我をさせ、佐助には見つかるなと念押しされた人物。



「、伊達…政宗…」



最初に見た程の武装はしていない。
けれど、刀の鍔を用いた右目の眼帯や、腰に帯びた六本の刀でわかる。
ポツリと名を呟けば、彼は少し笑みを浮かべ、ついと視線を落とした。



「、…っ」



その先に有るのは、ゆみの着物と、天弧の面。
ゆみは、焦りとともに唇を噛んだ。



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