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「………幸、そろそろ伊達殿が引き返して来そうだから、」

「うぅむ…そうであった…」



ほのぼのと穏やかな空気のなかを過ごして、半刻も経っていないだろう。
だが、いつまでも此処にいては政宗に見付かってしまう。
名残惜しそうに瞳を伏せたゆみに、幸村もまた、名残惜しそうにしながら繋いだ手から力を抜いた。
幸村の体温の移った両手を微笑んで見詰め、その手で狐の面を掴むと、再び顔を隠す。



「度々の迷惑、本当にすまねぇ…」

「…片倉殿の所為では、御座いません。」



再び身を隠すためにゆみが立ち上がれば、苦い顔で謝罪を述べる小十郎。
それに彼女はふるふると首を振り、とん…っと軽い音と共に開いたままであった天板の隙間から天井裏へと登った。



「ゆみちゃん、見つかっちゃ駄目だよ?」

「…うん」



小さな子供に言い聞かせるような佐助にも、素直に頷いて、ス…と填め直された天板。

ゆみはそのまま、上手く天守閣まで登り詰めると、緩やかな風に暫くその身を吹かせた。
このままこの場にいても、見つかるのは時間の問題。
ならば、元の身体に戻ってから初めての、探検と言う名の散歩にでも出掛けようではないか。



「…八つ刻、過ぎちゃったな…」



思い立って腕時計に視線を戻したゆみは、とうにそれが八つ刻から一刻過ぎを示しているのに気付き、小さく肩を落とした。
幸村の為にと焼いたマカロンは、茶の用意と共に厨に置いたまま。
焼きたてを食べて貰いたかったが、それも仕方のないことだ。



「また、作れるもの…」



自分を励ますように呟けば、さわさわと流れ出した風が、結われることなく流されていたゆみの長く艶やかな黒髪で遊びだす。
それを緩やかな動きで後ろに撫でつけ、ゆみはぐらりと身体を重力に従って下へと落とした。
そして、ふわりと風に乗るような動きで空中で身を捻り、背の高い木に飛び移る。
普通の娘では到底真似出来ない身体能力だが、忍から鍛錬をつけられているゆみには造作ないこと。
けれど、忍ではないから消えるように移動なんて出来はしない。



「―――やっと見つけたぜ…mysterious girl…!!」



だから、見つかってしまった。
城から飛び立つゆみの姿を偶然にも捉えた政宗は、ニィ…ッと口元に笑みを浮かべ、ゆみの飛んでいった方へと走り出した。



「、しまった…っ、姫が見つかるとは…」



ゆみを隠すために政宗を尾行していた望月六郎は苦々しく舌打った。
大事な姫君の為に見張っていたのに、しくじった。



「これは、猿飛に…いや、幸村様にぶっ飛ばされるやもしれんな…」



これから自分の身に起こるであろう事。
けれど、それより今は大事な姫君の危機を知らせねば。
六郎は素早くその場から姿を消した。



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